■ 3
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夏の匂いだ。
俺は、ふとそんなことを思った。
青い草と土が太陽の熱に焦がされて放つ芳香。
それは胸苦しいような叫び出したいようなざわめきを生む。
子供の頃はその衝動に素直に従って、友人達と大声を上げながら野山を駆け回った。日が暮れた今は、その匂いは薄れ、少し物悲しい蛙の鳴き声が聞こえる。
そして、俺の背後で律動する獣の息遣い。
うつ伏せになり尻を上げて、細く長いモノを尻に受け入れている俺の背中に乗せられた前足が、物思いに耽った俺を叩く。
振り返れば、情欲に塗れた眼をした綺麗な犬が俺を見ている。
「ノエル」
名前を呼ぶと、嬉しそうにワンと鳴いた。
ぺろりと俺の背を舐めると、小刻みに揺らしていた腰を速めていく。
思えば、おかしな犬だ。
流れ着いた街で大火事があった夜に俺の後をついてきて、それからずっと離れようとしない。やけにべたべたとなつっこいから、つい可愛がって連れ歩いてしまった。
手持ちの金が尽きたら死のうと思っていたが、こいつに良い物を食わせてやりたくて、仕事まで探した。そこから妙な縁が続いて、今では寒村の一軒家にこいつと二人で、自給自足のように暮らしていた。
人目を忍ぶようにこんなところまで来たのには、こいつとしていることを人に知られたくなかったというのもある。
初めて抱きあったのは、まだ街にいたときだ。
酒に酔って寝た晩、ふと眼を覚ますとこいつが仰向けになった俺の上に乗っかって腰を擦り付けていた。
しょうのないやつだと笑ってどかそうとしたら、唸り声を上げて、襟元を噛み、離れようとしなかった。
ひどく真剣な眼が俺を見ていた。
「なんだよ、そんなに俺を抱きたいのか?」
ふざけてそう言いながら、奇妙な嬉しさがあった。
会社が潰れたのをきっかけに、次々に訪れた不幸と不運と裏切りが、俺から家族も財産も奪い去った。厭世的になり、僅かな金だけを食いつぶして、細々と生きていた俺に関わろうとする者などなかった。
こいつだけが、俺の傍に居てくれた。
のしかかってくるその体を抱きしめると、柔らかい毛皮と温かい体温が身に染みた。わけもなく泣けてきて、涙を零すと、くぅんと鼻を鳴らして俺の顔を舐めた。
過去の痛みも孤独も拭い去るように、何度も何度も。
俺は、気がつくとその舌に自らの舌を絡ませて舐め返していた。
汚いとは思わなかった。
ただ、愛しかった。
下を脱ぎ捨て、自分のモノとノエルのモノを擦り合わせた。きゅんきゅんと嬉しそうに鳴き騒ぐノエルが可愛くてしょうがなかった。
そして、それから何度もノエルと抱き合った。
手で擦ってやるだけじゃなく、口に含んでもやった。
異常だとはわかっていたが、止められなかった。
ノエルが喜んでくれる事だけが嬉しかった。
初めてノエルを中に受け入れたのは、そうなってから三ヶ月ほど経った頃だ。自分で尻を解して、ノエルを導き入れた。嫌悪もためらいもまるで無かった。ただ喜んで欲しかった。
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