■ 1
尻の中に、つぷり、と浣腸の先が差し込まれる。俺は洋式トイレのタンクについた腕に顔を伏せた。ジュッと直腸に液体が注入された。羞恥で耳まで赤くなってるのが解る。
「仕事中だしね、一個にしとこうか」
俺の尻に浣腸を突っ込んだ須田が朗らかな声で囁く。
小太りの体に人の良さそうな顔を乗っけた須田俊一郎は、俺の勤める運送会社の社長であり、従兄弟だ。
歳は俺の三つ下の三十四歳。
コイツのおかげで俺はこの会社に就職できた。
離婚とリストラでどん底だった俺は、かなりの高給で俺を雇ってくれたコイツに感謝してるし頭があがらん。が、残念なことにコイツはどうしようもなく変態だった。
「亮平君、じゃ、これも履いてね」
振り向いた俺の目の前に、にこにこしながら鞄から出したのはパンツタイプのオムツ。俺は無駄と知りつつ、思いっきり嫌な顔をした。
「仕事中にこんなもん……っ」
「大丈夫、薄手だからバレないって。はい、右足あげてー」
須田は子供に下着をつけさせるような調子で俺にオムツを履かせる。がっしりと筋肉質な自慢の体にオムツを着けた情けない姿に、涙が出そうだ。
「我慢できなくなったら出しても大丈夫だからね」
須田は、ポン、と俺の尻を叩く。
「バイブも入れたいけど、漏電したら困るしね。ウンコ出てから入れてあげるね。しばらくお尻に入れてなかったから寂しかったでしょ」
須田のたわけた台詞を聞かされながら俺は作業着のズボンを履いた。
「あ、僕の留守中に他の男としてなかっただろうね?」
須田は一週間ほど海外に出ていた。東南アジアに支社を作るとかでここしばらくあちこち飛び回っている。おかげで平和な日々だったが、帰ってくるなり朝っぱらからこれだ。どうせなら出張先で男を買って遊んでりゃいいのに。
「……してねえよ」
「本当に? 心配だなあ、亮平君は男にモテそうだから。結衣さんともそれで離婚したんだし」
「アイツの話はするなっ、それに俺は浮気はしてねえんだ!」
俺は別れた女房の名前に苛立って吐き捨て、ベルトをキッチリ閉めると、須田を置いてトイレを出た。浮気はしていないが、結衣と別れた原因は俺にある。
元々、男の方が好きだった。それでも世間体もあるし、気性も見た目もさっぱりとした結衣とならうまくやれそうだったから結婚した。夜の方は回数を重ねなかったせいか、なかなか子供は出来なかったが、それなりに仲良くやっていたし、男と浮気もしなかった。ただ、ネットでゲイ動画を観ていたのがバレて別れるに至った。
離婚の原因は口外しないという約束で結構な額の慰謝料を払ったら一文無しどころか借金持ちになった。
そして久しぶりに会った須田と近況を話してるうちに離婚話になり、酒の勢いで原因まで口走ったのが運の尽きだった。
雇ってやるかわりに、と関係をねだられた。
須田は確かに見た目は脂肪が多そうだが、学生時代は相撲部とボクシングを掛け持ちしていたという妙な経歴のおかげか、脂肪の下にはみっしりと筋肉の詰まったいい体をしている。
社会人になった今でもジムは欠かさないようで、服を脱げば、ぽっちゃりとした印象を裏切る逞しい肉体が現れるというギャップが堪らず、正直、俺のタイプだった。
で、俺は酔ってたし、男に飢えてもいた。
離婚とリストラで参ってもいた。
だから、魔がさしたとしか言いようがない。
しかし、あんなヤツだとは思わなかった。最初にハメ撮りまでされて、エスカレートする要求に逆らう術もなく、ずるずると言いなりになっている。
俺は下腹に手を当てる。
まだ痛みはない。
だが、もうしばらくしたら激烈な痛みがくるだろう。
動けなくなる前に仕事を片付けなければならない。
会社の人間には縁故採用だというのは伏せてあるが、そうでなくともこの不況時の新参者を見る目は厳しい。
商品管理を任されているからには、昼までの発送の段取りをつけておかないと迷惑がかかる。
俺は尻を包むオムツの違和感を気にしながら倉庫に急いだ。
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