■ 1
鬼戸の服を脱がせるのは初めてだった。
俺の躾のときはいつも服を着ていて、鬼戸が局部を出すとき、俺は常に目隠しをされていた。
黒革の張られた硬いベッド。いつもは俺が寝かされるそこに横たわった鬼戸の斑に赤い白シャツのボタンを外していく。その下から出て来たのは、胸の辺りに大きな穴が三つ空いた防弾チョッキ。赤はそこから溢れていたが、いまはもう流れは止まっている。
防弾チョッキを脱がせるのは苦労した。
そして初めて眼にする鬼戸の上半身に視線を落とし、呆然とした。
引き締まった筋肉で覆われた体。左胸には穴が穿たれて赤黒い血と肉が覗いている。フォルムだけ見れば逞しく、雄々しい体だ。だが、そこに刻まれている傷は、どう見ても抗争やリンチで負ったものではない。
不自然に大きく膨らみ黒ずんだ乳首の周辺に散っているケロイドの丸い跡はタバコを押し付けられたものだろう。
そして、胸板や脇腹に無数に走る細長い痕は、鞭の痕跡。
更に胸の中央から鳩尾にかけてかつてボディピアスを施されていたであろう痕が整然と並んでいる。背中にも似たような傷はあるに違いない。
俺は、彼のベルトを外し、下も脱がせた。あらわになっていく脚はやはり傷を纏っていた。特に腿への鞭痕と、内腿の火傷の痕は集中的だった。ゆっくりと、下着をずらし局部を光の下に晒す。
力なく萎れ黒ずんだ雄。その根本から先端にかけて鮮やかな赤い刺青が施してあった。
『PIG』
乱雑な書体に嘲笑うような悪意が滲んでいる。
俺はしばしぼんやりとそれを眺め、次に雄を持ち上げた。その裏側を覆い尽くすように火傷の痕。それはたっぷりとした質感をもって垂れ下がる袋にもあった。
雄をよく見れば、先端の穴が歪に崩れたように広がっている。何度も異物を突き入れられた痕跡だ。そして雁のすぐ下を穿つように残っているピアスの痕。
俺は彼の体をうつ伏せに返す。
背中には予想通りに鞭の痕。
そして、背筋に沿って一行。
刃物で皮膚を切り取り肉を抉って刻まれた文字。
『卑しい牝豚の淫乱な穴を慰めて下さい』
ずいぶんと丁寧に彫ったらしく、綺麗な書体が整然と並んでいて、だからこそ、これをやらせた人間の凄まじく歪んだ欲望があからさまだ。
その文の最後は矢印になっていて、その先端は尻の狭間を示している。おぞましい刻印は、まだあった。両方の尻に、同じように刃物で刻まれている。こちらは背中に比べると雑な字だが、わざとだろう。
右側の尻肉には、『Fuck Me』。
左側には大きなハートマークの中に『Please Hot Cock』。
どちらも穴に向かって矢印が描かれている。その傷跡を指先でなぞり、俺は、こみ上げる笑いを抑え切れなかった。狂ったように笑いながら、俺は彼の背中に突っ伏した。
そうか、お前はなんて想像力も応用力もないやつなんだ。
この体は俺の体とどこまでも同じだった。
傷の種類も、刻まれた言葉も!
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