■ 1
「っあ、ああ、っぅあ、あ、あ! っひ、ぅあ、ああっあっ」
「はは、どうした? もう声も我慢できないか?」
力なく揺れるだけの俺の両足を抱えて腰を振りながら尾嵩が笑う。
卑劣で愚劣な性格に似つかわしい高慢な口調だが、その顔は道を渡る老婆に支えの手を差し出す好青年のように朗らかで爽やかだ。それが一層、憎々しい。
この、卑怯者めが。そう怒鳴りつけてやりたいが、俺の口はだらしなく開いて、あられもない声をあげ、みっともなく涎を垂れ流す。
こんな屈辱を味わう事になるなら、性技で勝負なんてするんじゃなかった。
三年の二学期最後のテストは、例によって俺とこの尾嵩が総合で同点首位だった。
三学期になれば受験に集中することになる。これが最後の大勝負、と俺は全力を出したのに、どこまでも忌々しいことにまたしても尾嵩と引き分けた。
この高校に入ってからというもの、日々の小テスト、定期テストはもとより、体力測定からマラソン大会、家庭科の調理実習、美術の似顔絵、何もかも張り合って何もかも似たり寄ったりの結果だった。
最初は張り合うつもりもなかったのだが、俺は負けるのは嫌いだ。おまけに幼稚園から中学まで、俺に匹敵する者はいなかった。いつしかそれが当然になり、トップの座は俺のいるべき場所だった。
だから、せめて何かひとつ確実に勝っておきたかった。なんでも良かったんだ。しかし、もはや俺に思いつく勝負はなかった。それでついうっかり、尾嵩が持ちかけた勝負にのった。乗る気はなかったのだ。
馬鹿げていたし、下品だし、そもそも、そういうことはしかるべき相手と秘めやかに行うべきだ。
だが、まるで経験がないことが男として失格であるかのように言われたら、受けて立たねばなるまい。とそう思ったのだが。
うかうかとあんな挑発で理性を見失ってかっとなってしまった自分が恨めしい。いや、もっと恨めしいのはこの恥知らずの詐欺師だ。
フェラチオまでさせた挙句におかしな薬を飲まされて前後不覚にさせられたと思ったら、妙な薬を打たれた。あっというまに体の自由は奪われ熱病のような欲情にかられた。
くそっ、薬なんか使われなければ俺の方がテクニックは上だった。いや、無論まだ実地で試したことはないが、それなりにコツというか、ツボというかその辺りは学んでいたんだ。それなりの動画とか、雑誌で。
「まあ、お前も童貞の身にしては、なかなか良かったよ? でも、そんな喜んで腰振ってるようじゃ、抱かれるほうが合ってるんじゃないか? それとも、オレにされるのが気持ち良すぎるのかな?」
童貞を強調するなっ、畜生っ。学生の身分で色事にうつつを抜かすようなふしだらな貴様とは違うんだ、俺はっ。
だいたい、貴様だって薬を盛ったから優位に立てたんだろうが。実力じゃないくせに何をしたり顔で見下してやがる。
俺が、ああ……っ、くそっ! 勘違いするなっ、俺が、こんなっ、ねだるように腰が動くのは薬のせいだっ。畜生っ、何をにやにやと笑っているっ。
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