退屈しのぎは腹の上で謳歌するもの
*夢主像は読者さまにお任せ
降り注ぐ蛍光灯の白さに温度はなく、仰向けで寝っ転がるソファーの柔らかさと、適温を保つ空調は快適も快適。
そこは日向家地下秘密基地の、とある一角。 自分用にあつらえてもらったスペースに、ナマエはいた。
お気に入りの生き物の写真集を何冊か持ち込み、ぼうっと中身を眺めている。 その可愛らしさや美しさ、奇妙さは、何度見ても飽きない。
「…………」
飽きないけれども、ページをめくる早さは早かった。やっぱり少し、退屈だった。
ばららら、と残りのページはろくに見ずに流して、到達した裏表紙を閉ざす。
クッションに乗せていた頭をわずかに浮かせ、そこに両手を差し入れて組んだナマエは、今度はぼうっと天井を見つめた。
無機質で静かな空間にいても時間は過ぎていく。ゆっくりまばたきをするうち、ひとつあくびが出た。
時間をただ無駄にするのも悪くはないかもしれないなと、やがて訪れたまどろみに素直に従う。
ーーーー
「…………重いな」
ふと目が覚める。眠ってから起きるまで、どれくらい経っただろう。
身体を起こそうとしたナマエだったが、首をもたげたところで、ピタリと止めた。
オレンジ色が彼女の視界を半分も埋め尽くしている。
驚いて目を見開いた。無論、自分でそうなるようにした覚えはない。
「よォ、やっとお目覚めかあ?」
「……これはこれはクルル曹長どの……」
「クックックー」
視界を染めるオレンジ色は、彼の頭のてっぺん。 至極愉快げな黄色いカエルが、ナマエとまったく同じ寝相で、腹の上に寝そべっているのだった。
顔の筋肉がひきつる。道理で重いわけだ。
「お休みのとこ悪いんですけど〜〜〜、そこ降りてくれませんかねえ」
「ククッ……オレが素直に言うこと聞くと思うかい?」
ええ、思っておりませんとも、はなっから。
ナマエはあからさまに大きく息を吐き出した。
「ため息つくと幸せが逃げるんだぜぇ」
「曹長どのがおっしゃいますか。せっかくのご忠告ですけど、わたしから逃げ出すような幸せなんてありませんよ」
「そうかい」
自分で言っていて悲しくなる……ということは、別になかった。 クルルだって本気で言っているわけでもない。
「で、どうしてわたしのお腹の上で寝てるんです?」
「ほう、またずいぶんと野暮なこと聞くんだなァ」
「野暮?」
ナマエは、彼の言葉に眉をひそめた。引っ掛かった単語をおうむ返しすることで、どういうことかと問う。
「クックック……そりゃアナタ、疲れて通り掛かったところに良さげな寝床があったら迷わずそこで寝るってもんじゃありませんかァ」
「人をなんだと思ってるんですよテメエは」
ナマエの発言の端々がだんだん粗野になっていく。 しかしクルルはちっとも悪びれていないし気にしていない。むしろ愉しそうだ。
「いい加減に降りろください」
「はあ〜〜〜〜寝心地サイコーですねこれは〜〜〜〜」
「どけこの変態が」
「いいじゃねえか、減るもんじゃねえしよぉ」
「……………………重いんですけど」
「クーックックックックッ」
ちっとも動く気配のないクルルに、ナマエはもう一度ため息をつく。
「しょうがないなあ」
そんなにこの腹の上がいいなら満足するまで寝かせてやろう。
仕方なさそうに──それでも楽しげに──ナマエは口角を上げる。
そもそも、どかそうと思えば簡単にどかすことだってできたわけだ。 口悪く腹の上から降りるよう促してはいたけれど、かといって、心底嫌でもなく。
言葉にはしないが、それくらいクルルも分かっていることだろう。
「変なことしたらノシガエルにしますからね」
「おっかねえこと言うぜぇ」
2019/08/20.
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