「……嘘はいかんぞ」
「俺はお前なんか友達にした覚えはねえ!」
「あんたの母はいい人だ。儂に茶まで振舞ってくれた」
「どんな姿で入り込んだ」
「靴を一足失敬しただけだが」
玄関に見知らぬ靴があれば客か。
我が母ながら、その間抜けぶりには泣けてくる。小鬼の策略勝ちというわけか。
「……わかった。用件言ってみろ」
ここまでされると、断る理由を考える気も失せてくる。うなだれる嵐に対し、小鬼は居住まいを正した。
「されこうべを探してくれんかね」
「……墓荒しは専門外だ」
「人のされこうべなんぞいらん。火葬やらで皆割れてしまっておる」
「じゃあ何だ……」
あぐらをかいた膝の上で頬杖をつく。どうも話を聞いてやるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「儂が欲しいのは、鬼のされこうべぞ」
「……だから墓荒しは」
人の墓荒しも望まないが、人外の者の墓荒しはそれ以上に望まない。むしろ、やりたくないのが本音だ。やった者も共に墓へ、など極力避けたい展開である。
だが、小鬼はしゃがれた声を張り上げた。
「誰もやれとは言うておらん。儂が欲しいのは沢山の血を吸うた鬼のされこうべだ」
「……それで?」
言い返したところで、禅問答の繰り返しになるだけだ。嵐は半ばやけになって問うた。
「墓をあばかないでどうやる」
小鬼は大きな目玉が半分になるほどに、目を細める。
「生きている鬼からいただく」
飽き始めていた嵐は、顔をあげた。
「……殺すのか」
「あんたは、はやとちりの気があるな。いくら儂らとて、食う以外に殺すことはせん」
たしなめられ、嵐は言葉に詰まる。
「されこうべ自体は儂が持っている」
「……話の意味がわからねえ」
「最後まで聞け。……しかし儂が持っているのは欠けている。歯が一本足りん」
「……それでどうなる」
「欠けては、されこうべでなくなる」
「それで」
「……いかんのだ。一つでも欠ければ鬼も欠ける」
「生きてる鬼から頂くってのは? 何だ」
「そいつが歯を持っている。持ってきてくれ」
「盗みもやらん主義なんだがな」
「いや」
小鬼はにやりとしてみせた。
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