口を出る白い息の行方を見守りつつ寒さに手をこすり合わせていると、不意に玄関の明かりがつき、大きな引き戸が恐る恐るといった風にその体を滑らせていく。数野の言う、誰かだろうかと一歩引いて見守ると、少しだけ開いた隙間から小学生ぐらいの少女が顔を出して嵐を見上げ、ぎょっとしたような顔つきになる。
 確かにこんな夜更けに玄関先で見知らぬ男が立っていたら驚くだろうな、といくらか傷つきながらも、嵐は努めて笑顔を作ろうとした。
 しかし少女の警戒は更に増すばかりで、車庫入れを済ませた数野がやって来ると驚いたような声を上げる。
「……何、お見合いしてるのよ」
「……お客さんなの?」
 少女は顔を突き出して数野に問う。そうよ、と肯定した数野が玄関に辿り着くと、まるで嵐の視線から逃れるようにその背中に隠れた。
 数野は苦笑して少女を示す。
「私の孫で朱里っていうの。今年で小学四年生だけど、人見知りが激しくてね」
「お孫さんですか……」
 この陽気な祖母と人見知りの朱里が上手く結びつかなくて混乱する以上に、数野が既に孫を持つような年齢であることに驚いた。
 人を見かけで判断してはならないという教訓を現実にしながら、招かれるまま家の中に入る。その間もずっと朱里は数野の側を離れないのだから、かなり激しい人見知りの持ち主であるようだった。
「名前と住所、連絡先もお願いしますね」
 広い玄関を上がった所に急ごしらえで作ったようなカウンターがある。その中に回り込んで台帳を取り出し、嵐が書いている間、暗い廊下の電気をつけた。台帳に書き込みながら視界の端で確認するに、自分の家よりは造りは新しいようである。
 マフラーを解きながら数野は嵐に問いかけた。
「朝食は大広間で七時から、お夕飯は食べるわよね?」
「出来れば」
「じゃあ、朱里。お祖母ちゃん、お母さんと一緒にこの人のお夕飯の用意をしてくるから、部屋に案内してくれる?」
「私?」
「お祖父ちゃんは戸締り確認してるでしょう。お父さんも……ああ、そうそう」
 朱里に話しかけていた数野が嵐に向き直る。
「もうこの時間だとお風呂もしまっちゃうのよ。だから悪いんだけど、今晩はお風呂我慢してもらえるかしら。明日の朝になれば五時から九時の間に入れるから」
「それで構いません」
 書き終えた台帳とペンを数野に渡す。簡単に目を通した数野は玄関の明かりを消し、再び朱里に顔を向けた。
「空き部屋はわかるでしょ? 途中でお祖父ちゃんに会ったら非常口の鍵も見ておいて、って言ってね」
「でも」

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