それほど強いものでもない。だからこうして強気に出れる小心さ加減を悔やみつつ、雑鬼の侵入すらもこの聖域は許すのかと不安になった。
「なれば」
 嵐が抱いた微かな不安を増長させるように、雑鬼が呟く。
「子狐の邪魔だてはするなよ」
「こ……?」
 思わず変な声を上げた嵐に向かって雑鬼はけたけたと笑った。
「哀れな子供よ。無理だというのに、仲間を連れて行こうとする姿に感銘を受けた我らが手助けをしてやっているのだ」
 言葉の含みからして、それが誠意ある行動とは思えない。軽く顔をしかめて見ていると、雑鬼はくるりと踵を返す。
「邪魔はするなよ」
 再度、念を押してあっという間に消えた。彼らの妙な遊びに巻き込まれているのかと首を傾げていると、持ったままの煙草の火が指にまで迫っているのに気付き、慌てて靴の裏に押し付けて消す。一考したはいいが、結果はあまり変わらなかった。
 頭を潰された煙草を泣く泣くハンカチに包んでポケットへしまい、古ぼけた社を前にして手を合わせ、心の中でこれから行う無礼を詫びる。後でお神酒も持ってくると付け加え、その扉に手をかけた、その時だった。
「何をしている!」
 男の大声が背後で響き、嵐の心臓は文字通り飛び上がった。慌てて社から離れて背後を振り向くと、屈強な体つきの壮年の男性が凄まじい勢いで嵐に掴みかかってくる。
「何だ貴様、泥棒か。分別も知らん輩が手を出していい場所じゃない!来い、警察を……」
「あ、いや、違います、泥棒じゃありません。違いますって」
 そうは言っても説得力がないな、と内心げんなりする。そして予想通り、男は声を荒げた。
「扉に手をかけようとしていた奴が何を言う。泥棒以外の何者でもない」
「違うんですよ、本当に。確かめたかっただけです」
 男はそこで始めて、嵐の言葉を聞く素振りを見せた。
「何をだ」
「……話すので、とりあえず胸倉を離してもらえますか」
 太い腕が嵐の胸倉を掴み上げ、いよいよ息も途切れ途切れになってきた嵐がそう主張すると、男はようやく話をさせる気になったようだ。手を離し、咳き込む嵐を見下ろす。仁王立ちの姿で出入り口を塞ぐのは、逃亡を防ぐためだろうか。頼まれたってそんな余力はないし、やったところでこの男の方が体力はありそうな気がする。
「近所の人間か」
「頓道と言います。多聞寺の近くの」
 痛む喉をさすりさすり答えると、男は目を丸くした。

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