感心しきりというわけにもいかない。敷地が面する道路には既に夕闇が忍び寄っている。時間は止まってはくれないのだ。
「じゃあ、質問を変える。眼がないというのは現実的にか、それとも感覚としてか」
「現実的にも感覚的にも、ない」
「なら、現実は置いておくとして、その感覚を鈍らせているものは何だ」
「わたしの周りにあるものだ」
「……は?」
 思わず聞き返し、嵐はしゃがみこんだ。しかし、それ以上言い様が無いとでも言いたげに、三つ塚は黙り込んでいる。放り出された疑問に嵐はくわえ煙草で頬杖をつき、思考を巡らせた。
 周り、というと、この氏神の敷地だろうか。だが、最初のやりとりで相手は「ここの主はいたが、いない」と言っている。存在の有無を感知出来るならば、即ち、今のやりとりで言う感覚的な眼があるということだろう。いたが、いない、という曖昧な表現はこの際関係なく、むしろその表現が出来るまでに感知する能力は鋭いのだ。
 自分から離れた箇所にある氏神は感知出来るものの、塚の付近となるとその精度が極端に下がる。そうすると、周りというのは氏神の敷地を指していないことになり、その範囲は本当に限られたものになるのだろう。
 ならば、とくわえていた煙草を離して、紫煙をくゆらせながら地面を見た。
──文字通り、塚の周りなら?
 塚の周りにはこれといっておかしなものは見えない。ただ竹と、土があるのみだ。そう、表面上のみで言えばその二点しかない。
「……中か」
 塚の外からは見えない塚の周り、つまりは塚の周りの土中に感覚を鈍らせるものがある。それなら適役のものがあるのだと、ついこの前、明良と話していたではないか。
 多くの子供達が自らに降りかかった悪態を、悪態を放った者の名と共に埋めている。その中には他愛ないものもあるだろうが、少数の「本物」が持つ力に合わされば笑うどころでは済まない。それは塚の主を盲目に導くほどの威力を持っているのだ。
 嵐は思わず、屈んだ足を少し後退させた。
「おそらく、わたしの周りのものを取り除いたところでわたしの目はよくはならない」
 嵐の意志を読んだように、しゃがれ声が言う。一瞬、紙を掘り出せばと思ったのは本当だが、そうしたところで既に交わされた契約を破棄することは出来ないのだと悟った。
 そうだ、これは契約である。紙という契約書を通して、子供たちは何かに自らの怒りを託していたのだ。
──では、その何かとは何だ。
「お前はいつからここに居るんだ」
「わからない。随分長いこといる気もするが、そうでない気もする」

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