「ところがだ。間宮の場合はそうじゃない。ただ立ってるだけ」
「は?」
「面白いだろ。間宮の行動範囲内でただ間宮の目につく所に立ってるだけなんだ。
 刑事が事件を面白がってどうする、とは言わなかったが楽しそうな槇の顔はどう見ても野次馬根性丸出しだった。
「そいつは最初間宮の行動範囲の一番遠い所に立ってたんだが、それが段々範囲を狭めてきたんだな」
 槇は長いスプーンをふらふらとさせる。
「最初は駅の向こうだったのが次は線路ってな具合だ。それが段々範囲を狭めてきて、遂には家にまで来た」
「それで」
「それだけさ」
 事情を判断しかねている嵐に、槇は息をついてパフェにスプーンをさした。
「ドアを叩いてそれだけ。何もしない。二、三回叩いて帰ったそうだ」
「ただの変質者じゃないんですか。そういうストーカーもいるかもしれない」
「高仲もそう思って訊いたんだ。心当たりは無いのか、って。その答え聞いてなあ、オレはお前向きだと思ったのさ」
「……で、何て」
 今まで聞いた中ではどう考えても、自分向きではない。厄介な警察沙汰を嵐に押し付けようとしているように見え、半ば嵐は飽きていた。
──パフェは俺が奢るのか?
 目下気になるのはそれだけである。
 気づかぬ槇はにやりと笑ってみせた。
「そいつは雨の日にしか現れないのさ」
 飽きていた嵐の頭に言葉の一石が投じられる。──雨。
 それ自体に何ら怪しい所はないが、今までの話の流れからすると奇妙な違和感がある。
 表情の変わった嵐を見て、槇は「ついでに」と付け足した。
「そういう変質者がいるっつう報告はない」
「精神的快楽があるんじゃないんですか、雨に。そういう倒錯した精神の持ち主なら」
「そんなのが居たら学校通じてオレんとこまで話があがってくる。晴れた日には絶対現れないし……追い討ちかけると、間宮以外には見えないんだってよ、そいつ」
 確かに追い討ちだ。間宮自身に何らかの障害があって、見えないという可能性もあるが──見えないという事実自体、既に常識の範囲外にある。
「高仲も対応の仕様がねえだろ。一応、毎日間宮の家の辺りを重点的に巡回してるようだが」
 一通り話し終わり、槇はパフェをつつき始める。
 我慢していたのだろうか、スプーンを口に運ぶ速さは目を見張るものがある。
「どうする。お前向きだろうが」
 嵐は盛大に溜め息をついて、うらめしそうに槇をねめつけた。
「わかりましたよ。でも俺に出来ることなんて高が知れてますからね。俺の範疇外のことだったら槇さんに押し付けますよ」
「絶対お前向き」
「話聞いてみないとわかりません」
「いや、お前向きだね」
 あまりにも強気で言うため、嵐は何故、と問うた。
 すると槇はウエハースをひとかじりし、咀嚼して飲み込む。
「オレの第六感がそう言ってるんだ。間違いねえよ」


二章 終り

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