「あの後、あそこらをうろつく人たちの話し相手をさせられて大変だったんですけどね。誘った本人は逃げてるし」
「怒るなよ。あの時は本気で気分悪くなってさ」
「槇さんは大体がそういう体質なのに」
 怪訝そうな顔をする。
「いい加減幽霊の一つや二つ認めたらどうです」
「怖くてそんなの出来るか」
「じゃあ俺にも無理なこと言わんで下さい」
「その割には、諾々と従ってるじゃねえか」
「どこ通ってきたんだか知りませんがね」
 自覚がないのかしないのか、恐らくは後者である槇に説明をするのは骨が折れる。
「槇さん厄介事ふっかける時、いつも変な雑鬼連れて来るんですよ。引き受ける引き受けないに関わらず、それら全部こっちに来るから」
 ならば引き受けてさっさと処理してしまった方がこちらにも都合が良い、と続けた。
「諾々とじゃなくて渋々ですが」
「……言うなよ、気付かないようにしてきたのに……」
「もうこっちに移ったみたいだからいいですよ」
 気付かないふりをしていても、慣れない人間──槇のように人外の者に対して恐怖心のようなものを抱く人間など、あちら側もすぐそれとわかるものだ。
 こいつは見える、と。
 それに対処するにはむしろ堂々とすることであり、その上で相手するなり無視するなりの態度を取る。変な度胸ばかり身についている槇だが、そういった本質的な恐怖心には抗えないようだ。
 もっとも、それが自然なのだろうが。
「それで俺向きって何ですか」
 それた話の筋を戻す。槇は目を細めて嵐や自分の背後を見たりしていたが、得心がいったように話し出した。
「オレの後輩で交番勤務の高仲ってのがいてな、元ネタはそいつなんだ」
 槇の後輩というと、随分苦労しているだろうなと内心同情した。
「高仲んとこは住宅街が主で、まあ田舎っちゃ田舎なんだがな。それで二週間くらい前か、交番に女子高生が来たんだと」
 自分とは縁遠い人間だな、などと考えていると察したように「お前とは縁遠いな」と「付け加え、槇は続けた。
「その子……間宮って言うんだけどな。間宮は最近誰かに尾けられてるってんで、高仲んとこに来たそうだ」
「ストーカーですか」
「ところがそうでもないらしい」
 槇は生クリームをすくった。
「ストーカーは何らかの形で対象と接触しようとするだろう。手紙でも電話でも。自分の存在を知らせたいからさ」
 長いスプーンの先にある生クリームを、槇はひょいと口に運んだ。

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