グラスの中の氷をストローでつつきながら、至極あっさりとした口調で言う。あまりにも普通である為、嵐は一瞬聞き間違えたかと思った程だ。
「どこに、とか聞かないでよ。あんた聡いからわかるだろうけど」
 察しがついた。――同時に丁が言えない訳も。
「まあ、あっても使えないし無いのと同じか」
「……他に方法は」
「首や胴を断たれればさすがに死ぬわね」
 げんなりしつつ、嵐は勘弁とばかりに手をひらひらとさせた。
「……なら、火かしら」
「火?」
「清められた火なら、多分」
「護摩壇の火とか?」
「極端な話、神社仏閣を燃やした火でも多分ね」
「……物騒だな、おい」
 ここまで話しておきながら、今更に話の内容の異常さに気付く。時折通る店員や客が訝しげな顔で見ても文句は言えまい。
「それだけ強いって事。死んだって良い事ないって言ってやりなさい」
 結局答えにも何もなっていない。
「小鬼は?」
「雑鬼が鬼の骨を集めるなんて初耳だわ。式なんじゃないの」
 式、とは人に使役される雑鬼や精霊の総称である。使役する者の力に応じて、式の力も左右するのだ。
 あの小鬼から感じる気配は――雑鬼というには強すぎる。
 それに、と嵐は言う。
「……土の匂いがした」
 話しつつ自分でも変な事を言っているという自覚はある。
 しかし、小鬼と話している間は始終、よく肥えた腐葉土の香りがついてまわった。庭の香りとは違う、湿り気を帯びた香りだった。
「……精霊かしら。そんな匂いがするなんて」
「お前でもわからんか」
「あんた、私を何だと思ってんの」
「俺よりかはこっちの業界に詳しいだろう」
 にわか拝み屋の嵐の知識など、とるにたらないものだ。
 何百年も生きた知識を持つ鬼に比べれば、披露するだけ無駄というものである。
「生まれた時からこっち側に身置いてたら、嫌でも吸収するわよ」
「そうか?」
「そんなもんよ。他に用無いんだったら私、もう行くけど」
「働き過ぎは良くねぇぞ」
 立ち上がりざま、丁は苦笑しつつ返した。

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