「それで用って?」
「ああ、悪いな、わざわざ」
「いいって。たまには外出たいし」
「姉さんは元気か?」
「元気よ。あれを普通に元気って言うかはわからないけど」
「……すまん」
「やあね、何言ってんのよ。で。用件は?」
 少女に促され、嵐はぽつぽつ話しだす。
 小鬼の事、慎の事、そして鬼は死ねるのかという事。全てを聞いた少女は感心した様に息をついた。
「あんた内容の濃い日々送ってんのね」
「それで済むかよ。で、どうだ」
「まずその慎って男ね。どの一族にも属してないのは変だわ」
「葵には?」
「さあ。ウチんとこは大きいから、どうかしら」
「庚(かのえ)に聞いてみることは?」
「先代ならともかく今のはねえ。……あまり葵に関わらない方が良いわよ」
 苦笑しつつ警告する。
 やんわりと、押し戻された気分だった。しかしそうされても仕方ないだろう。
 葵は日本において随一の勢力を持つ鬼の一族である。その歴史は古く、また現存する鬼の一族の中では最も精霊としての力が強い。下手に手を出して、無事に済むような一族ではないのだ。
 この少女――丁(ひのと)も葵の中では高位に位置する。そのような人物と嵐が何故知り合いかはまた別の話だが。
「その人が生粋の鬼で、しかも一族から離れてフラフラしてるような人間だったら、噂の一つぐらい流れてくるわよ」
「やっぱ生まれつきじゃねえか」
「それくらいはあんたもわかるでしょ。ウチらと違うって」
 丁は頬杖をつく。
「人が鬼になる事は不可能でないわ。人を恨むとか喰うとか……ま、どれも通説にすぎないけど」
「じゃあ元は人か」
「聞いた限りじゃね。そいつが死にたいって?」
「死にたいって」
 言って、コーヒーをすする。丁は怪訝そうな顔をしてみせる。
「簡単な事じゃないわよ」
「俺も言った。でも死にたいらしい」
「……鬼切ならね」
「……あいつと同じ事……」
「明良?でも、それが一番早いわよ」
「俺らの業界じゃ無い事になってる」
「あるわ」

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