「オレだって鬼は範疇外だよ。お前、友達いるんだろ? そっち方面に」
「鬼に? ……まあ、居るっちゃあ居るけどな」
「なら、そいつに頼んで説得でもなんでもしてもらえよ」
「無理だ、そりゃ。あの家古いし。はっきり同族とわかる奴でないと面倒見ねえよ」
「……あいつ鬼だろ?」
 ずっと上を向いたままだった頭を下に向け、首の筋肉を揉みほぐす。
「多分。ただ、どうもなあ……」
 嵐は言葉をにごした。
「あの天狗が何か言ってんの?」
「ビビって来やしねえ」
 いつもなら餌があると言ってほいほいついてくる奴が、今回ばかりは及び腰だ。
 鼻の良さ、敏感さは嵐も認めている。本物の鬼は知らないだろうが、危険なものに対しての本能的な危避感が働くのだろう。
「じゃ、なに気にしてんのさ」
「……あいつ」
 気配は友人の鬼と似ている。だから鬼だと言う慎の言葉に間違いは無いだろう。
 だが言葉の端々には後悔の念すらにじみ出ていた。
 生まれつきの――現存する鬼の一員であるならば、あのような物言いをするだろうか。
「……いや、鬼なんだろうけど」
 うめきながらテーブルに突っ伏す。疑惑が疑惑を呼び、考えても答えは出ずという悪循環はどうも体内の血糖値を下げるらしい。――盛大な腹の虫が、台所内に響いた。
「……そういや、何しに来たのお前」
 ただ愚痴を言いに来ただけならば叩き出すところだが、嵐は勢い良く立ち上がり、冷蔵庫をあさりはじめた。
「飯だ、飯。俺も慎も腹減ってんの」
「あー……あいつね」
「無理にでも食わせろよ」
「嫌だっつってんのに食わせたって意味ねえじゃん。限界知れば自分から食うし」
「今日がその限界だ」
 パンやらおにぎりやら缶詰やらを山盛り取り出し、温めるべき物を順にレンジで温めていく。
「で? 今日はどうする?」
「食ったら帰る」
「は!?」
「まず、あいつに健康的な生活をさせろ。あんな不健康な顔されちゃ、こっちが参る」
「そりゃそうだけどさあ」

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