「本当に人か?」
「オレにとっちゃ皆一緒だよ。見た目は人なんだけどな……まあ、会えばわかる」
「……いま、途中はしょったろ。かなり」
「信用しろって」
「俺の目見てからそれ言えよ」
 前方に顔を向けながら明良は渇いた笑い声をあげた。
「まあまあまあ」
「……料金二割増な」
 その言葉にさすがにぎくりとしたか、苦笑しつつ振り向いた。
「……二割減の違いじゃねえの?」
「じゃあ三割増し」
「……二割増しで手ぇ打つよ」
 ささやかな仕返しの成功に満足していると、明良がここ、と言って寺の縁側から続いている自宅の一室を指した。
 もう少し行けば近代的な自宅が見えるが、寺に近いこの辺りは時折補修したりと、古さを残したままである。
「毎回思うけど変な家だな」
「ほっとけ。親父が自宅は譲歩したけど、ここだけは譲らねえの」
「ここなくしたら畳の部屋一個も無くなるんだっけ」
「それ嫌がってさあ。ボロいから寺も一緒に建て替えろ言ってんのに」
「……破戒僧」
「……後でゆっくり話し合おうか」
 お互い牽制しあうと、明良は入るぞ、と言って障子を滑らせる。
 向かいの小さな障子窓から陽光がさしこむ、ささやかな部屋だった。
 その男は右側の壁にもたれかかり、閉じていた瞼を開けた。
「……やあ、図書館の」
「ああ……久しぶりだな」
 我ながら間抜けと思える返答に、男は小さく笑った。
「何だ、知り合いなら話が早い。慎、こいつが嵐だよ、話聞いてもらえ。オレ、茶入れてくる」
 明良がいなくなると、男は――慎はわずかに身じろぎとし、あぐらをくんだ。
「嵐君っていうのは君か」
「あいつ何か言ってたか」
 慎の向かいに座る。障子窓からの陽光が眩しく、手で遮るように左目を覆った。
「お人好しで、多分自分よりは相談相手になれるだろうって」
「お人好しは余計だろ」
「後で言っておく」
 くすりと笑う慎の顔を覗き見る。部屋の暗がりにいる所為か逆光の所為か、その顔色は芳しくない。

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