遊園地の夜



遊園地の夜


 パン、パン、と乾いた音が夜空に鳴り響いて人々の耳目を集める。そして数多の目が、暗い空に流れゆく白い煙の行方を眺めた時、タイミングを見計らったようにして大輪の花が夜空に咲いた、
 初めは黄色の単色、次は複色と立て続けに放たれる花火に大きな歓声があがる。時に笑顔のマーク、時にハートと仕掛け花火も多彩で、傾いて形が歪むのも愛嬌があって可愛らしい。
「……いやあれ微妙だろ。ハートじゃねえし」
「は? あんた目え歪んでんじゃないの」
「心が真っ直ぐなもんで」
「歪んでる奴ほど自分が見えないのよねえ」
「見えてない人の僻みは醜いなあ」
「三十後半でその性格じゃ結婚も無理ね」
「姐さんほどじゃないんで」
「……選り好みしないなら出来るわね」
「……俺にも選ぶ権利ってもんが」
「権利云々を説いている余裕があんの? あんた」
「人の相棒を誘惑している人に言われたくない」
「あんないい男が普通の女に取られるってのが我慢出来なくてねえ……ほら、うちにしちゃ珍しいホワイトカラータイプだし? ああいう男の子供を産みたいわー」
「無理難題で夢を見られるって平和だよな」
「もう少し科学が進めばどうにかいけると思うのよね……」
「女じゃないんだから無理だろ」
「夢を忘れちゃ人生終りよ」
「暗に妻帯者に手え出すなって倫理を説いてるのがわかりませんかねえ……!」
 黒髪の青年が腹立ちまぎれに地面を蹴ると、近くを通りかかった不幸な一般人が驚いたような顔を向ける。この「相棒」に付き合うと自身の倫理も砕かれかねないと、ロートゥは深い溜め息をついた。どうしてこんな奴と遊園地に来なければならないのか。職場には女性の同僚もいたはずなのに。
 ロートゥの倫理も道徳も通じない「相棒」は金色の髪に菫色の瞳、垂れ目に色気を添えるように泣きぼくろがぽつんと鎮座し、見た目は美人で通じる男性ではあったが、心はれっきとした女性であった。顔立ちだけで言うならばハロウィンの時の女装は真に迫っていたものの、その体格の良さが邪魔をして、違和感ばかりが目につくのは毎年のことである。
 本人は現状の自分が好きであり、基本は男性の恰好を取る。それでも、言動や身振りに出る女性らしさは拭えず、心に住まう女性はもっと明らかな形で表へ出ようとしていた。だからなのか、女心も男心もわかると言って、職場での女性人気は高い。対して、男性からは恐れられてもいた。職場の大多数の女性を味方につけるということは、それだけで充分な権力の持ち主となり得るのである。
 そんな彼、もとい彼女の名はレリーといい、本格的にどうでもいい情報ではあるがレリーの恋愛対象は男性であった。最近のお気に入りはロートゥの相棒らしく、妻帯者の彼へことあるごとにスキンシップを図っている。
 体力系のロートゥに対して相棒は文系であり、確かに、彼らの職場では珍しいタイプではあった。結婚して数年になる細君がおり、幼い娘もいる。そしてその可愛い娘の誕生日が今日のため、夜遅くまでかかる今回の仕事はパスせざるを得なかった。
──そこまではいいとしよう。
 ロートゥは独身だが、家族と過ごすことの幸福をわからないわけではない。幼い頃の自分にも多少なりともあった幸福である。
 だが、理解出来ないのはその先であった。どうして相棒の代わりがレリーなのか。上司に問い質せば「ちょうど空いていたから」とだけしか答えを得られず、それ以上の考えはまるっきり頭にないようだった。

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