「逆人形」



『待て待て。ところがよくよく耳を澄ませば釘打ちの音じゃあない。一つ一つの音に耳を傾けたおれの耳に飛び込んできたのは……』

 小鬼は耳を手で囲い、声をひそめた。知らず嵐も話の雰囲気に飲み込まれ、ごくりと唾を飲み込む。

『なんと男の叫び声だった』

 それほど大きくもない声なのに、嵐は胃の奥を冷たい手で撫でられたような感触を覚え、肩を強張らせた。

――何だろう。

 ところが共に耳を傾けていたムジナや老人などは、それこそ世間話をあしらうかのような態度で息を吐く。

『その程度のものか。それで確かめに行ったら人形があったというのだろう。死体はなく』

『詰めが甘いの』

『おいおい。あの大杉の異名を知らんのか?』

 慌てたように小鬼が手を振る。ムジナらはともかく嵐は言葉の続きが気になった。

『二連杉というのだ。知らんのか?』

 それまで呆れたような視線をなげかけていたムジナの耳がぴくりと動く。老人は片眉を上げ、長い髭を撫でた。

『ほう。あの杉か』

『噂話だと思ってたなあ』

 しきりに納得する彼等に疎外感を感じ、嵐は小鬼に二連杉の由来を聞く。今度は身振り手振り無しの語りとなった。どうやら彼等の間では有名な話らしい。

『二つの杉が絡まりあって一本に成ったのを二連杉というんだ。その内の一本の枝を憎い相手の家に置いて、残りの一本に人形を打ち付ける。するとその相手が死ぬ』

 他と違うのは、と言って腕を組む。

『人形に相手の髪の毛や何かを込めなくて良いってことだ。あれで何百人も呪い殺されたって聞いたぞ』

『あまりに怖すぎて噂になっただけかと思ったが』

『馬鹿が』

 小鬼はにやりと笑う。

『人間の間ではそれは長いこと語り継がれてきたという話だぞ。おれらにしたら呪いなんぞ非現実すぎて笑い話にもならん』

 自身の存在自体が非現実であることは棚にあげて言う。小鬼はわざわざ嵐の方を向いてにやりとした。からかっているつもりなのだろう。事実、嵐は小鬼の話にすっかりのまれてしまっていた。

「人形は?」

 小鬼にとって最高の視聴者となった嵐は声をひそめる。声を大きくして話せる内容とも思えない。


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