「逆人形」
揃った顔触れを見回す。黄土色の衣を着た小鬼、着物の裾から沢山の毛が見えるムジナ、浅葱色の着物を着た仙人のような老人。いつもに比べ、格段と少ない。
『仕方ないだろう。お前の方から来る奴が皆出て来ないんだ』
「僕の?」
『そうそう。嵐の家の方さ。合図をしたのにだぁれも来やしない』
小鬼に賛同し、ムジナが甲高い声で言う。
「わかりにくかったんじゃないの」
『なにおう?これでもか?』
むっとした風の小鬼がふう、と息を吐く。途端に生暖かな強風が嵐の頬を打った。たたらを踏んで小鬼に謝りつつ、ランドセルを降ろす。
「わかったよ。何で来ないんだろう」
『さぁなあ。別にいいだろう』
「明日も来ないかもしれないよ」
『明日は来るさ』
それまで黙っていた老人が口を開く。そういえばあまり見ない顔だな、と今更になって思った。
『何でさ、爺さん』
『明日は来れるからな。壁が消えるからの』
「壁?」
嵐は自宅からここまでの道程を思い出す。彼等が来れなくなるような壁は目にしたことがない。老人は白く長い眉に覆われた目を細めたように見えた。
『左様。今日は曇っている。だが明日は晴れるからな。壁が消える』
「虹みたいなもの?」
『知るか。世迷言を呟くな』
興味を失ってしまったのか、ムジナがぺしりと老人の禿げた頭を叩く。さして気分を害した風でもなく、老人は頭をさすっていた。
『さて本題に入るぞ。今日は何をする?』
『墓をあばくのも飽きたしなあ』
顎を撫でながら小鬼が言うのを嵐はぼんやりと眺めていた。頭の中を老人の言葉が目まぐるしく駆け巡っている。壁という一文字が気になった。
ひとしきり顎を撫で回した小鬼が、小さく声をあげる。
『そういやあ、この先の大杉に人形が打ち付けてあるのを知ってるか』
『いいや』
『近くの笠木山で博打をした帰りだったかな、夜な夜な聞こえる不気味な音』
『釘を打つ音か』
身を乗り出すムジナを手で制して、小鬼は芝居がかった口調で続けた。
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