秋桜─COSMOS



 そう、シーイーは一人でこの住宅地の畑を開墾、管理しているのだった。耕耘機もカウントするのなら一人と一台というところだろうか。時折やってくるスズメやハトやムクドリなどは騒ぐだけ騒ぎ、シーイーのご飯のおこぼれを貰い、たまに出たばかりの芽やまいたばかりの種をつついていってしまうので、賑やかな友人ぐらいであろう。迷惑者にまでならないのは、それでもシーイーが出す以外に音を出してくれる貴重な存在だからである。
 これが自分の仕事だからシーイーは寂しくはない。誰もいない住宅地にいつか誰か来てくれる日を待ちながら過ごすのは、決して辛いことではなかった。
 それに、シーイーには楽しみがあった。
 今日の分の耕作を終えた頃には昼を回り、シーイーは簡単な昼食を取った。午後からは耕耘機の出番はなく、既に耕した畑の巡回にあたるのが日課であった。枯れている作物があれば取り除き、ロボットが自動的に収穫する作物の収穫漏れがあれば収穫しておく。スプリンクラーの故障もこの時に直してしまう。
 午前と午後の仕事を本来なら逆転させた方がいいのだろうが、収穫ロボットの起動が、太陽電池の充電が完了する昼過ぎでないと出来ないのである。仕方なしにシーイーがその割を食っているというわけだった。収穫しか出来ないロボットのサポートというのも、お粗末な話である。
 今日もいくつかの収穫漏れがあり、バギーの後ろに牽引した小さな荷台へ放り込む。トウモロコシが五個とサトウキビが七本。精緻さに欠ける仕事だが、いないよりはマシだった。開墾はシーイーが、収穫は専用のロボットが、水やりはスプリンクラーが、そして収穫後の畑はやはりシーイーが耕し直し、少し休ませてから再び作物を植えるのだった。
 改良品種のお陰で、同じ畑で何度も同じ作物を育てても不備はない。だが、それでは風景が単調になってしまうので、シーイーはたまに花を植えて趣向を変えることがある。それが秋桜の花だった。やせた土地でも日当たりと水はけさえ良ければ育つ花で、わらわらとピンク色の花や細い葉を寄せて咲く姿は賑やかで微笑ましい。
 それに、とシーイーは空を見上げる。知り合いの名前だから、というのもあった。
 夕焼け空を鳥が横切って行く。彼らが巣へ帰る時間がシーイーにとっても帰る時間だった。
 バギーにまたがってのんびりと道を走る。やってくる車もないから真ん中を走った。広々とした道路を専有出来るのは何とも楽しい。いずれは沢山の車が往来し、歩道には人が賑わうのだが、それを楽しみに思う反面、この優雅な時間を楽しめなくなるのは残念だと思った。
 シーイーの家は住宅街の外れにあった。彼一人で過ごすには大きい平屋建てで、この家もそのうち人が住むようになればシーイーの手を離れる。いわば管理人のような状態で暮らしている為、実はどの家を使ってもいい。どうせシーイーの物にはならないのだから、プールつきの家を使っても良かった。とは言え、シーイーはプールには入れないのだが。
 バギーを家の前に停めると、一斉に鳥がやって来る。荷台のトウモロコシを彼らは狙っていた。
「しょうがないなあ……」
 ちょっとだけだよ、と言い、シーイーはトウモロコシを一つ取り、葉をむしって道路の側に放り投げた。小さな体の鳥たちがむらがってついばみ始める。彼らも餌の恩をわかっているのか、そこで粗相はせず、餌の後はどこかへ飛び立って用を足しているらしかった。どこでやっているのか、シーイーが管理する住宅地より外の自然林の中であるのは確かで、そこを寝床にもしているらしい。一応は野生のはずなのに、妙に律儀でおかしな友人たちだった。

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