秋桜─COSMOS



秋桜─COSMOS


 青空の下で金色の髪の毛が陽光に映える。とうもろこしのヒゲを連想させる細い毛はふわふわと風に揺れ、その下で輝く大きな緑色の瞳はつと、天頂への階段を駆け上がる太陽を臨んで細くなった。今日も暑くなりそうである。
 両手にはめていた軍手の片方を外してオーバーオールのポケットにつっこみ、健康的に焼けた小さな掌で額に浮かんだ汗の玉を拭った。濡れた部分を風が撫でて熱をさらってゆく。
 シーイーは小さく息をついてもう片方の軍手も外し、近くの木陰に入った。さして大きな木ではなく、小さなシーイーの背丈に多少、色をつけたような大きさである。そのため、彼が入り込めばすっぽりと木陰が体を覆い、外の熱から守ってくれた。外気にさらされていない木陰の空気はひんやりとして心地よい。バスケットに昼食と共に入れておいた水筒のジャスミン茶も冷たさを保ち、喉を通せば体を冷やしてくれた。
 その傍らに投げていた麦わら帽子を手に取り、シーイーはじっと見つめる。そして意を決したように被ってみた。だが、おさまりの悪い毛が麦わら帽子で簡単に御せるわけもなかった。格好悪く飛び出す毛をつまみ、シーイーは溜め息をついて帽子を取って元の場所に置く。
「……どうしてこういう髪の毛になっちゃったかなあ……」
 ぼやいて再びジャスミン茶を飲み、二度目の溜め息を木陰に置いてシーイーは仕事に戻った。
 そこは広大な住宅地であった。とは言え高級というわけでもなく、平均的な住宅地と言えよう。
 車庫つきの平屋か二階建てに、バーベキューなどを楽しむには申し分ない庭。少しグレードが上がればプールのついた家もあるが、どの家にも共通しているのが無人ということと、家の前庭が畑ということであった。
 前者については人だけでなく、犬や猫の類もいない。ならばネズミや熊、あるいは猿ならいるのかと言えばそちらもいない。いるのはシーイーと鳥たちだけである。
 後者の畑についてはそれ以上の説明もいらなかった。ただ、畑がどの家の前でも家より先に客人を出迎えるというだけである。作物は主にトウモロコシだが、区画によってはサトウキビもあった。水やりはスプリンクラーが行い、誰もいない住宅地で水の涼しげな音が時折響いて聞こえる。気持ちよさそうだなと思っても、シーイーはその中には入りたくなかった。濡れた後の事を考えると面倒だからである。
 ジャスミン茶をおかわりし、バスケットに忍ばせていたクッキーを一かけら口に放り込んで木陰を出る。肌を焼く日光は容赦なく、今飲んだジャスミン茶を一気に蒸発させてしまいそうだった。勿論、そんな事が出来ないことはシーイーもわかっている。これでセミでもいれば夏の気分だろうが、ここには彼と鳥しかいない。春か晩夏か、と似合いそうな季節を探りつつ、シーイーは小さな耕耘機を動かした。独特のモーター音を響かせて動く、この相方がシーイーは好きだった。
 最新型ならもっと静かでもっと燃費のいい耕耘機がある。カタログで見て知っていたシーイーは、それらが洗練された姿ですましているのを見て、おかしくなったものだった。土をいじるのにドレスで赴いているように見えたのである。
 彼の相方は旧式で、一昔前にはこれが一般的な物だったかもしれないが、今となってはこの小うるさいモーター音さえ日常で聞くことは難しい。赤い外見と無骨な姿は年季の入った農夫を思わせ、一人畑仕事に勤しむシーイーにとっては頼もしい師匠のような存在であった。

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