月の光だけが満たす部屋で、眠れずに少女は布団の上に座り込んでいた。漆黒の長い髪に蒼の双眸。
彼女が純粋の日本人で無いと言うことを、彼女のその双眸が物語っていた。
布団の上でしばらくぼんやりしていると、声が聞こえてきた。
『大丈夫なのか?・・・・・最後とはいえ、東堂の生き残りなんだろう?』
聞こえてきた言葉の内容に、少女は眉をしかめた。
『あまり心配なさらなくても良いのでは?彼女は予見師と聞きましたが?』
男の声を遮るかのように、最長老の声が聞こえた。
『大丈夫だ。両親の居場所を報告したのも紫歩なのだから・・・・・・』
最長老の言葉に、少女―紫歩は苦い思いを呑み込んだ。
『紫歩は両親とは違い、とても利発な子だよ・・・・・』
―違う・・・・・。
最長老の言葉に、紫歩は思わず耳を塞いだ。
僅かな光を頼りに遠ざかっていく声と足音は、だんだんと紫歩の部屋から離れていった。
「・・・・・・っ」
抑えきれない涙が、次々と紫歩の双眸からあふれていった。

東堂―――
紫歩が生まれたのは、央雅八家の一つ“東家”の弱小傍流家だった。
東本家の“蒼羽”で現在長を務めている従姉だかに当たるのが紫歩の母親だった。
母親の血を色濃く引いたのか、紫歩は“予見師”としてこの世に生を受けた。
東家の血筋ではあったが、傍流でかなり廃れていた東堂に隠岐の直分家から縁談が来た頃、紫歩の母は米国人と駆け落ちした。
慌てたのは紫歩の祖父母だった。
隠岐の直分家(つまり隠岐の長とは兄弟筋)からもらった縁談を棒に振った母を、彼等は東堂再興の為に必死になって捕えた。
運が良いのか悪いのか、その時すでに紫歩と弟が生まれていた。
紫歩は予見師として稀有な能力を持っていたが、母の中にいる妹は能力を持たずにいた。
能力を持っていないだけならば問題はなかったが、その妹は強い能力を行使するのには都合の良い器だった。
そのため一族は妹を―母もろともでも―殺すことを判断し、それを知った父に連れられ、母と弟は逃亡した。
紫歩が両親の逃亡を知ったのは、彼らが水忌を出てから一週間を過ぎた頃だった。
当時八歳だった紫歩は、それほど能力の使い方を理解していたわけではなく、最丞紫月について使い方を学んだ。

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