大和国家が成立しておよそ何年たっただろうか?世は基盤をととのえ、聖得太子の出現により転機を迎えた。それからさらに数年後・・・・・。ここは奈良。平城京。創造主、桓武天皇はある一室でくつろいでいた。蘇我氏の独占政治から解放された世はすこやかなる奈良を中心に栄えていた。このごろは唐の方から渡来人とよばれる異郷の民達が集い、仏教なるものを説くようになっていた。あまりにいろいろな事が一度におこりすぎるこの乱世、その頂点に立つ桓武はいささか頭をいためていた。だからこれは少なからず束の間の休息である。
まどろみかけた意識のかたすみに声が聞こえた。「あなた・・・。」すんだ鈴をころがすような声、桓武の正妻、藤原朝臣乙牟漏(ふじわらのあそみおとむろ)である。「・・・乙。」桓武は口によくなじんだ愛称を紡ぐ。乙牟漏は自分が皇太子である時代からささえてくれたよき理解者だ。だから桓武は心おきなく乙牟漏とは本音で語りあえる。乙牟漏は夫たる者に深く一礼し、夫の横に距離をおいて座する。それがこの時代のきまり。夫は主君、女はたとえ妻でも仕える者。桓武はそんな乙牟漏の女らしさがすごく好きだ。そっとよりそってくれるマクラみたいだ。
桓武はこいこいと手招きをした。乙牟漏は微笑して夫に従い、身を桓武に預けた。「どうか・・・されましたか?」やさしく、鈴のようにりんと響くよくとおる声が問う。桓武は暖かな吐息を間近に感じながら答える。 「最近は忙しゅうての・・・・。少々疲れたものよ」率直に意見を述べると乙牟漏がくすくすと笑った。「あなた様がお疲れになってしまってはお国が動きません。」静かにしかし突き放したいいように桓武はムッとする。「されど私も人間だ!疲れるものは疲れるのじゃ!」子供のように反発してきた夫に軽く面食らいながら乙牟漏はころころと微笑した。
あまりに笑うので桓武は拍子抜けしてしまった。「のう、乙。なにがそんなにおかしい?」すると乙牟漏は目を細めてつげる。「あなた様との時間が好きなのです。」その言葉に桓武は乙牟漏を強く抱き締めた。「あなた?」軽く目をみひらいて乙牟漏が問う。「名を・・・」「えっ?」桓武がつぶやく。「名を・・・・・呼んではくれんか?」この時間が愛しくて切なくてそう言った。「・・・・桓武。」少し、とまどいがちに乙牟漏はその名を呼んだ。君がいるから明日がある。すべては幸せがために・・・・。「私はこの京を守る。」

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