男が苦笑いしながら否定するのだが、興奮した少女の耳にはまったく届いていないようで。
男はますます困ったようにその場に立ち尽くした。
少女はそんな男をきりりと睨みつけると、
「仕方ない、今日のところは勘弁してやる。――だが、いいか。後日またかならず来るからな。お前も、あの生臭坊主も、足を洗って待っていろよ」
そんな捨て台詞を吐くと、少女は脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「あ。待っ――」
男が慌てて声をかけたのだが、その時にはもう少女の姿は遠く小さくなってしまっていた。
いや、かすかに見える後ろ姿は、先ほどの少女の姿ではなく、しっぽの先が二又に分かれた金色の毛並みの仔狐だった。
男は呆然とその後ろ姿を眺めながら、呆れたようにため息をついた。
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