「ここか――」
小さな少女が、とある寺の門前で中の様子をちらちらと伺っている。
切れ長の瞳と、長い黒髪を結わえた赤いリボンが印象的な美少女。年のころは十二、三歳くらいだろうか。
少女は物陰に隠れるようにして、さきほどからずっと寺の境内を覗いている。しかし中に入る気はなさそうだ。
ぶつぶつと独り言を言いながら、どうやら誰かを探しているようである。
「ずいぶん静かだな。誰も居ないのか?」
耳を澄ましてみるのだが、読経の声も、庭を掃くホウキの音もしない。
少女は少し大胆に身を乗り出して、じろじろと視線を走らせた。しかし、やはり誰の姿も見当たらない。
「うー、得意の変化で生臭坊主を化かしてやろうと、せっかく山から下りて来たのに。肝心の相手が居ないのではどうしようもない。……いや、それとも、もしかしてこれは千載一遇のチャンス?今のうちに中に忍び込んで、奴の帰りを手ぐすねひいて待っているのも良いかもしれないな」
少女はそう言ってくすりと笑った。
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