Piece27



 既に日常生活の一つへと組み込まれていた庭仕事をしていた時、ふらりと立ち寄った風のネウンが声をかけてきたのが始まりである。その時の目付け役はドゥレイだったにも関わらず、どういう運命の采配か、ネウンが訪れる数分前に所要を思い出したと言って場を離れていた。すぐに代わりの誰かが来ると思っていた手前、その時は何とも思わなかったものの、入れ替わるようにして現れたネウンの存在には何かしらの策略を考えずにはいられない。とは言え、彼らの行動に関連性を見出すことも出来ず、それらはサムナの中で個々の事象として処理されたに過ぎなかった。
 立ち寄った「風」と表されたのはその時の名残でしかなく、大きな意味は持たない。ただ、その名残が今になってサムナの中で存在感を増していた。
 サムナは開かれた扉を見据える。以前、デイディウスに伴って入った屋敷の玄関が、今度は主を待たずに来客を迎えようとしていた。
 ネウンが淡々とした調子で「お前の出自を知りたくないか」と言った声を思い出す。彼は特に感情の起伏が見えにくい。サムナにそう思われたところで、お前も同じと言われるのがオチだろうが、ネウンの場合はそれを意識的に行っているように見えるのだった。
 ただ、従順な機械であれ。
 誰の意志によるものか、ネウンが必要と判断してそうしたのか、誰かの命令によるものなのか不明ではあるが、彼の場合は不気味の谷を乗り越えて尚、その谷を振り返ろうとしている節があった。だからこそ、ネウンの言葉はサムナに大きな波となって働きかけたのかもしれない。
 扉が勝手に開錠し、口を開くのを見届けてからネウンは去った。サムナがどう選び取ろうと彼には興味がないらしく、伝言係として現れたにすぎないようだった。とすれば、ネウンを遣わしたのはこの屋敷の中にいる何者かということになる。
 何者か、と言葉に表してみて思い当たる人物がいないわけではない。ただし、あれを「人」と称していいのかもサムナにはわかりかねた。サムナが知る「人」とは随分、かけ離れた姿をしていたからである。それを思えば、サムナの外見と中身の齟齬は甚だしく、他者の事をとやかく言える立場にはなかった。
 考えること数分、サムナは庭師然とした姿のまま屋敷に足を踏み入れる。
──何故、ここへ来たのか。
 答えがそこで待っているような予感があったが、人ではない己に「予感」などといった曖昧な計算が出来るはずもない。踏み入れた先でサムナが嘆息すると、背後で扉が静かに閉じた。
 閉ざされた扉を振り返り、そっと押してみるも、案の定びくともしなかった。罠だな、と遠くなっていた相棒の声が耳の奥に蘇り、サムナはその言葉に押されるようにして暗い邸内に向き直る。すると、来客を歓迎するでもなく、足下を照らす非常灯が青白い光を垂れ流して進むよう促した。
 いつもギレイオが言っていた、面倒事には首を突っ込むなという意味が、サムナは今になってわかった。
 そして一人、暗い屋敷の中を進む自分の隣に誰もいないことを、その空白の大きさをやっと理解したのである。


Piece27 終

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