Piece27



 項垂れたギレイオは手をひらひらとさせて、ヤンケに先を促す。ワイズマンは公衆の面前で暴露されたことが相当に勘に障ったらしく、加えて、ギレイオの一言がとどめになったようだった。意図せず飛び出た言葉なだけに、後悔すること果てしない。高く買ってしまった不興はこの先も尾を引きそうであり、その事を思うだけで、サムナを連れ帰る困難さよりも頭を痛くさせられた。
 兄弟子の態度にさすがに気まずいものを感じたヤンケだが、もはや舟は漕ぎいでてしまっている。今更戻りようもなく、後に謝罪するとして、と気持ちを切り替えた上で、ヤンケは端末に素早く指を走らせた。大画面に数字と文字が入り乱れた文章が吐き出され、意味を探す間もなく続々と行を増やしていく。
 ギレイオはその画面に見覚えがあった。
「……お前が前に落ちかけた時、送られてきたもんだな」
 あの時は小さな画面に見た羅列であるが、大画面で見るとその異様さは迫力を伴って見る者を圧倒する。
「これがヒントって?」
「一応は節に分かれているみたいで、合計で153節まで分けることは出来ました。ですが意味は不明、色々試しましたが、どんな解析や計算も受け付けませんでしたし、今まで世に飛び出たどんな暗号とも違います。これを書かれた方が個人的に作って利用していただけのものだと思いますが。……本当に頭がいいんだと思います」
「天才ってのは時々嫌味だな。でも、お前は読めるんだろ」
 ヤンケは苦笑してギレイオを振り返った。
「私のはたまたま見つけただけですけどね。サムナさんの中のブラックボックス、覚えてますか?」
 ギレイオは顔をしかめる。
「……あれも嫌味の塊みてえなもんか」
 意味のわからない周囲に対し、ヤンケはブラックボックスに関して簡単な補足をする。サムナを調べている時に見つけたこと、どのプログラムからも独立していること、決して開けないこと、そしてこじ開けようとすれば自爆プログラムが作動すること。
 そこまで聞いてタウザーがぽつりと呟いた。
「……随分、仰々しいものだね」
「そうですね」
 ヤンケは巨大な画面を仰ぐ。
「サムナさんを動かすプログラムなどは確かに高性能ですが、特に凝った作りでもないんです。おもちゃの積み木の中に一個だけ金庫が混じっているような感じでしょうか」
「そりゃ随分、バランスの悪い」
 ラオコガが苦笑を交えて言う。ヤンケは頷きながら、再び端末に向き直った。
「そうなんです。サムナさんはとてもバランスが悪いんです。高性能の頭脳と体を持っているのに、その半分も使い切っていない。……それが、私はネウンさんにとても似ているような気がしました」
「電脳の申し子が心情で考えたってか?」
「ネウンさんはサムナさんが私の所にいるのを知って、ヒントをくれたんじゃないかと思ったんです。だとしたら、鍵はサムナさんの中にあって、私が唯一正体を掴み切れていないやつが、鍵じゃないのかなと。……それでリンクさせてみました」
 ヤンケの細い指が操作卓を走り、力強く最後のキーを叩く。

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