Piece23



 ディコックが亡くなってから、家畜の世話にはギレイオとホルトが出るようになっていた。勿論、それまでもホルトが手伝うことはあったが、あくまで手伝いにすぎず、こうして専従して仕事をすることはなかった。ウィリカが外に出るのを嫌がるようになったからである。
 ホルトが家でしていた仕事をウィリカがやるようになり、ギレイオの側では自然とホルトを見かけるようになっていた。
「やる気がないのならお行き。この上、大事な家畜までなくしたらたまらない」
 言葉は相変わらず手厳しい。
 しかし、ギレイオはこちらの方が心地よいと感じるようになっていた。ホルトは徹頭徹尾、ギレイオを嫌っている。彼女には裏表というものがない。だから身構える必要などないのだと気づき始めていた。
 それはホルトも同様で、何を言っても堪えない様子の孫には言いたいことを言っておけばいいのだ、と思うようになっていた。我慢する方が馬鹿らしく、その結果がウィリカのようになるのであれば、自分はあんな愚かな振る舞いはしたくはない。
 他人の前でギレイオを糾弾するという醜態はさて置いての考えではあったが、ホルトとギレイオの間ではそれは整合性に富んだ答えだった。
「……荷造りは済んだのかい」
 それぞれに通じる答えを導き出した結果、ホルトはこういった世間話も出来るようになっていた。身構える必要がない以上、理論武装しても無駄だと悟ったのである。
 ギレイオはこっくりと頷く。今まではそれなりに話す子供であったように思う。だが、ここ最近はめっきり言葉数が少なくなってしまっていた。ともすれば声を出すことを忘れてしまったのではないかと思うほどであり、その確認も兼ねてホルトは声をかけるようにしていた。お陰で家の中を占めるものは静寂が多くなり、大きな音を出すのも躊躇われるほどだった。
 ギレイオに関してはその傾向が顕著であり、家の中でもウィリカに見つからないよう逃げているようなフシさえある。仲違いをするのは結構だが、喜色を浮かべるでもなく、ホルトは憮然とした表情でいることが多くなっていた。何に腹を立てているのかわからないまま、彼女は憤りを抱えていた。
「それを向こうへ移動しても続けるつもり?」
 抽象的な表現にギレイオが首を巡らし、ホルトへ説明を求める。
「どういう意味?」
 ささやくような声だった。生気といったものが少しも感じられない。
「移動した先でもだんまりを決め込むつもりかと聞いてるんだ」
「話すことないから」
「じゃあ、次の冬も?」
 暗に逃げようとしているギレイオの口調にホルトの声が被さる。
 逃すまいとするかのような強い言葉だった。

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