Piece4
だが、目の前で情けない姿をさらす車もなしに、タイタニアへ着けると思うほど楽観的でもいられなかった。ゴーグルをつけ直したギレイオは再びエンジンに向かう。
「まあ、他に比べりゃ平和な町だ。さっさと修理して、さっさと出る」
「そこまで、これは走れるのか?」
「その分の余裕ぐらいは残してあるよ。それがギリギリになってきたから、止まったんだ。俺、修理してるから、お前は周りの注意してろよ」
足下に散乱する工具の類を手にすると、サムナの返答を待たずにギレイオは修理に取り掛かった。
サムナはわかった、とだけ呟いた。久しぶりにこの何もない風景を、じっくり見ることが出来そうだった。
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ずん、という、くぐもった音と共に地響きが大地を揺らし、細い黒煙を立ち上らせている。遠くに建物が瓦解する音が聞こえ、それを眺めながらサムナは呟いた。
「……これが平和というやつか」
「…………なにこれ」
サムナに並んで黒煙を見上げ、ギレイオはその異質な風景を前に呆然とした。アクアポートで散々、面倒な事に巻き込まれたと思っていたが、どうやらこちらでも待ち構えてくれていたようである。長閑な町の一角で車を止めて呆気にとられていると、最後の一息とばかりに再び黒煙が上がった。
地図上では本当に小さな町でしかなく、このような事が待ち構えている可能性を示唆する噂も聞いたことがない。「他に比べれば平和な町」という言葉が、目の前で音を立てて崩れていくようだった。
ほとんど壊れているような車に鞭打って来た手前、何としてでもここで修理を済まさねばならない。だのに、得体の知れない爆発が目の前で起きている。何事も大人しく済まさねばならない身には、何とも厄介な相手に見えた。
どうにか現実に戻って来たギレイオは、同じように黒煙を見上げる男に問うた。
「あれ、なに」
怪訝そうに二人を振り返ってから、男は目の上に手で庇を作り、再び黒煙へ視線を戻す。
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