Piece3
二人がアクアポートへ至るのに使用した車は、度重なる悪路の果てに早々に寿命を迎えてしまった。だからタイタニアへ向かうと聞いた時、足はないものと思っていた手前、相方の手回しの早さには敬服する。
ぽかんとして見つめるサムナをギレイオは得意満面の笑みで見返した。
「礼金にちょっと枝つけてもらってさ。それでこれ」
ぱん、と車のボンネットを叩く。
おそらく、件の金持ちからせしめたのだろう。ちょっと枝をつけてもらったというには大きすぎやしないだろうか。すると、さすがというべきか、サムナの考えを読み取ったようにギレイオは、ぴ、と指を突きつける。
「今、お前、やりすぎとか思っただろ。いいんだよ、報酬は正当に貰わないと。低く貰ったって誰も誉めてくれねえからな。あって困るようなもんでもないし」
「わかった。……世話をかけてばかりだな、おれは」
「仕方ねえだろ。それだってギブアンドテイクだよ」
言いながら車の運転席に乗る。助手席は空いていた。
「戦う時はお前が俺を守る、それ以外では俺がお前を守る。世話も何も、これ以上簡単な理論はねえだろ」
ギレイオにとっては、これほど単純な理屈はないらしい。それは常々言われてきたことだが、サムナの中にはそういう「単純な理屈」がないのだ。だから、聞くたびにひどく感心させられるし、なぜか気持ちが救われる。
「おら、行くぞ」
腰に下げていたゴーグルを外して目に装着する。サムナは口許で小さく笑い、空いたままの助手席に座った。
「門は開くのか?」
「握らせるもん握らせておけばな」
にやりと笑って言うのだからあなどれない。
「じゃあ、行くぜ」
キーを差し込んで回し、エンジンをふかす。
獣が唸るようなエンジン音が空気に反響し、夜空で弾けた。
Piece3 終
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