Piece3



「行くのか」
「行かなくてどうする。お前の腕だ、腕。何とかしたくたって、ここだと何も出来やしねえ」
 疑問符を頭上で点滅させるサムナの様子を見て、ギレイオは思い出したように声をあげた。
「あー……そうか。お前初めてだな、あそこ」
「あそこ?」
「あそこ。ここじゃ道具も何も足りない。そのまんまで剣なんか握れるか」
「……無理だな」
「だろ。お前にゃ剣を握っててもらわないとな」
 暗に何かを含まれ、サムナはそれ以上の言及を許されなかった。


 熱気に飲まれたのか、回想が予想外に深かったのか、サムナはギレイオに叩かれるまでその呼び声に気付かなかった。
 びくりとギレイオに焦点を合わせると、苦笑した顔が目に入る。
「考え事か?」
 いや、と答えようとしたサムナの隣に立ち位置を移し、ギレイオは後頭部で手を組んだ。
「ま、仕方ないわな。色々ありすぎたし、お前のキャパ越えてるだろ」
「容量に問題はないが」
「そういう問題じゃねえよ。……まー、ついでにその辺も見とくか。タイタニアに着いたら」
 軽い口調の中に、微量だが緊張が見て取れた。やはりタイタニアにはあまり良い感情を抱いていないようである。
 街の中心部を離れると歓声も人の姿も遠のき、明かりすら遠慮して届かない。人の流れに逆行して歩く二人を不思議に思いこそすれ、不審に思うことはないようだ。黙々と歩を進めていると、防壁が暗闇にぼんやりと浮かび上がってくる。その手前でギレイオは建物の角を折れた。
「どうした」
 建物と建物の間にある小道の先は、防壁の外に繋がっているわけではない。てっきり、このままアクアポートを出るものだと思っていたサムナが声をかけると、ギレイオは道の傍らに蹲る黒い塊に顔を近づけている。手探りで何かを探しているようで、やがて、「あ」と小さくあげた声に重なるようにして大きな音が響き渡った。祭の夜には似つかわしくない、車のエンジン音である。
「徒歩で行けるかっての。中古だけどいい音出すんだぜ、このエンジン」
「……いつの間に」

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