Piece19



 元からの姿のもの、自然交配によって生まれたもの、人工的に生まれたもの、と生い立ちは様々なれど、季節を無視して咲き狂う姿は同じだった。違うのは土に埋められる前までの話で、咲いてしまえばどれがどれなのか見分けがつかない。箱庭には最適の花たちであるとは言える。
 多種多彩な色の花に水が降り注ぐさまは、太陽を模した光を乱反射して美しかった。花の色に光の色が重なり、絶妙な場所で見るとそれは七色の帯を作り出す。虹という言葉でくくってしまうと途端に風景の新鮮さが失われたような気がし、ホースを持つ手の向きを変えて虹を消した。
 ドゥレイは鼻を慣らし、頬杖をついたまま、あのつまならそうな顔で眺めるに徹する。口も手も、出す気は毛頭ないようだった。
 ふと、傍観者に徹し始めたドゥレイが顔を上げる。むせ返るように咲く花々の向こうから、のっそりと大きな体が歩いてくるのが見えたからだった。
「何をしていた」
 ネウンはドゥレイの傍に立ち、何も、と答える。
「エインスは?」
 自身が問うた内容にさして関心があるわけではないようだった。斟酌することもなく、ドゥレイは問いを繰り出すが、ネウンは記憶を参照して言うことしか出来ない。
「部屋にいたと思うが」
 彼らには居室として与えられている部屋がある。何を思ったかそれも個室で、ディレゴの研究室に程近い所に三つ並んでいた。部屋に籠って何かをする甲斐性もない彼らに、居室は必要ない。部屋が必要ないのだから、必然的に中身も必要なくなってくる。誰の部屋を見ても綺麗なままの家具類が置いてあるばかりで、壁も絨毯も新品同然の顔でいた。居室があるのだからと寝るくらいの甲斐性を見せる程度である。
 唯一、ネウンの部屋には本がいくつかあるが、それもディレゴから借りたものに過ぎない。自分から積極的に動いて何かを得ようという物欲は、共通して誰にもなかった。
 居室とは名ばかりの箱が三つあるだけで、人間よろしくそこで過ごすことの馬鹿馬鹿しさを、三人は常に抱えていた。
「寝てるの?」
「寝てはいない」
「起きてあの部屋にいるのか。正気じゃないな」
「呼ぶか」
「別にいい。あいつにしか考えられないことがある。俺たちは理解出来ないことだけど」
 ドゥレイは頬杖をついた。
「でも推測で物を言えば、結局は俺たちと同じなんだろうと思う。やることがなくなった。それだけだ」

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