Piece3



「光ある英知の粋を遠ざけるのは何故だろう」
「……怖いからでは?」
「そうだ。眩しすぎるのだよ。人は本来、暗闇のものだからね」
 ちち、と大窓の外を鳥が横切る。声の主はそれを目で追っていた。
「然るに、人の傍に英知の粋がいるというのは何かの間違いでなくてはならない」
「……はい」
「人とは暗闇のもの。慣れぬ光には敵意しか抱かん」
 機械のきしむ音がする。
 声の主は男を振り返った。
「アマーティアの遺産を捕えろ。あれは本来、こちら側に存在すべきものだ」
「承知いたしました」
「手段は選ばなくていい。せっかく作った人形を使うには丁度いいだろう」
 男は応えて一礼し、退室する。重苦しい空気がわずかに薄れ、体に残る残滓すらも吐き出すように深呼吸を繰り返した。
 すると、その背後から声変わりを果たしたばかりのような声がかけられる。
「……マスター」
 マスターと呼ばれた男は振り返った。
 小柄な少年が歩み寄ってくるところだった。両耳を白っぽい楕円の機械が覆い、双方を結ぶバンドで、赤い髪をたてがみのように立たせている。
「ドゥレイ」
「なに。何か用」
「ああ……」
 男は思い出す。自分がドゥレイを呼びつけていた。
「ネウンとエインスは」
「中庭。いいよ、俺が聞いておく」
 ドゥレイは右耳の代わりに存在する機械に触れた。
「いいよ」
 これで男の声はドゥレイの脳に刷り込まれる。やや苦い思いでそれを見て、話しだした。
「アマーティアの遺産を捜し出し、捕えろ」
 ドゥレイが鋭い目を男に向ける。
「やめたんじゃないの」
「やめたわけじゃない」
 男は溜め息と共に言葉を吐き出した。
「やめる理由がどこにある? 神殿騎士団が目を光らせだしたから、中断せざるを得なかっただけだ」
 諦められるものなら、そもそも男の研究の継続を誰が認めるだろう。ドゥレイに気付かれないよう、男は内心で苦虫を噛む。
「それが期を得たわけだ」
「派手な動きをしなければ、彼らも手を出せない。彼らとて、解決すべき問題は山積みになっているはずだ」
「へえ」
 ドゥレイは右側の機械をいじりながら相槌を打つ。
「一度撤回した重討伐指定も復活させた。神殿騎士に見つかれば、自然と情報も流れるだろう。それを足がかりにしろ」
「居所は自分らでつかめって?」
「出来る限りのサポートはする」
「殺すのは」
 やや黙ってから、男は「破砕するのは」と言い換えて答えた。

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