Piece3



 ギレイオは椅子を窓の近くに引き寄せ、サムナと向かい合わせになるように座る。そして二人の間にある小さな机に肘を置いた。
「神殿騎士はどうにかなる。問題はもう一つだ」
「わかっている」
 サムナは背もたれに体重を預け、嘆息した。
「なぜ、おれの重討伐指定が復活したかだろう」
「討伐指定の登録は抹消されたはずだ。心当たりはねえか」
「あれば、こんなに驚きはしない」
 ギレイオは体をドア側に向け、壁に寄りかかる。
「俺もだよ」
「……あいつが生きていたのか、それとも約束が破棄されたのか」
 ぼそりとサムナは呟いて、窓の外を見た。
 晴れ渡る空を小さな鳥の群が横切る。甲高い鳴き声は街の喧騒にかき消され、虚しさを帯びて聞こえた。
 笑顔で出会う人々や店の呼び込み、熱気、時折聞こえる罵声も、それは人特有の暖かみを持っている。
 窓一枚隔てて、世界はこんなにも違った。
「どちらだと思う」
 頬杖をつき、ギレイオは苦笑した。
「賭けをするとしたら、レートは高そうだな?」


+++++


 一般的に人々が吸う空気を白とする。ならば、そこの空気は黒と言うに相応しい。
 色で形容するというのもおかしな話だが、腐臭だのといった具体的な形容を、そこの空気は許さなかった。だから、黒である。混じりけのない純粋にして、もっとも本質に近い黒だ。
 大きな窓から差し込む陽光も虚しさを帯び、その恩恵を受ける権利を持つはずの人物たちは、全く陽光の下に現れようとしない。二人は陽光も立ち入れぬ影の中にいた。
「……?」
「太陽の恵みは誰にでも平等だと思うかね」
 男は「そうですね」と肯定する。
 車椅子に乗った声の主は、くっと笑った。
「それはね、本当の光の在り方を知らない人間が言うものだよ」
「……」
「光は容赦なく闇を蹂躙する。光は影があって初めて、その存在意義を得るというのに」
 男は黙って聞いていた。
「太陽の恵みは決して平等ではない。だから光も決して、万人に微笑みかけるわけでもない」
「はい」
「それを人は知っている。気付かぬふりをしながら、本能の奥底で常にその輝きを独占したがっている」
「……」
「それは愚考かね?」
「いいえ」
「その通り」
 声に笑いがこもる。
 おかしいのだ。ただ端的に答える男の反応を嘲っている。
「それが性というもの。人は光あるものに恋焦がれる生き物だ」
 ならば、と続ける。

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