Piece2



 ただ触れるだけで、その者の存在を根底から覆し、過去に思いを馳せる事を許さずに消す。強引な力だった。
 痛みは既にひいている。そもそもが丈夫に出来ている体なのだ。立ち上がり、剣を右手一つで持ち直して、襲いかかろうとするトロールを臥す。
──止めなければ。
 あいつが、壊れてしまう前に。
 “異形なる者”の陣営は崩れつつある。それをかきわけてギレイオの元に辿り着くのは簡単だった。見境のなくなったギレイオが突き出す右手を右腕で受け止め、生まれた隙を見逃さずに剣の柄を腹に叩き込む。
 体中の酸素を吐き出して呆気なく倒れこむ相方を、サムナは剣を収めて右肩に担いだ。空いた右手には切り落とされた左腕を掴む。
──不気味だな。
 自分でもそう思うほどに異様であり、“異形なる者”もその一歩を踏み出せずにいた。そして、その向こうからこちらを窺う神殿騎士達も。
 この状態が牽制になっているなら幸いだ。
 そう思った時、わずかに保たれていた均衡が崩れた。“異形なる者”が攻撃の為に動いたのではない。止まったのだった。
 絶命したわけでもなく、何か見えぬものに絡めとられたわけでもない。流れる時間や空気に置いていかれた彼らの瞳からすう、と光が失せていく。
 動きを止めた“異形なる者”は、さながら悪趣味な彫像のようで、ふらりと重心を失って倒れていく。中にはドミノ倒しのようになって倒れこむものもあり、地面へ着地する度に轟音を轟かせていた。
 皆、固唾を飲んでその様子を見つめていたが、やがて最後の一体が倒れた時、しんとした戦場で爆発したように歓声があがった。
 生きていることに涙する者。
 自身の戦いぶりに酔いしれる者。
 戦場で出来た仲間と肩を組む者。
 そして、失った命の数に涙する者。
 サムナはそのどれでもなく、緊張した。
 明確な敵が倒れた今、神殿騎士は重討伐指定の名を受けた一人に目標を定めるはずである。案の定、様子を窺うだけだった神殿騎士たちはサムナを遠巻きに囲み、剣を抜く。
 苦々しい思いで鞘を走る音を聞いていると、一人が足を踏み出した。
「抵抗しなければ手荒なことはしない」
「抵抗したら?」
「相応の処置を取らせてもらう」
「詭弁だな」
「共に戦った者に対しての情けと言え。重討伐指定、サムナ・ノーマス」

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