Piece2



 再び走り出し、立ち向かう“異形なる者”になど目もくれずギレイオを目指す。
 ギレイオは戦っていた。だが、それを戦闘と言うのかはわからない。
 ただ一方的な攻撃。彼を取り巻く“異形なる者”に反撃の余地など与えていない。
──まずい。
「どけえっ!!」
 大声というよりも咆哮に近いそれは、人ならぬ者にも恐怖を与えることが出来たようだ。
 “異形なる者”の壁にわずかに出来た隙間に体をねじ込み、背中を向けたままのギレイオの肩を掴む。
 その瞬間、ひゅ、と空気を切る音がしたかと思いきや、ギレイオが振り向き様に回し蹴りを決め込んで──決め込む寸前でサムナがその足を掴んでいた。
「……相方もわからないか」
 目に宿る狂気が失せ、代わりに救われたような色が宿る。左目はまだ紅い。どう言い返せばいいのかわからないような顔をしたが、やがて考えるだけ無駄と思ったらしい。憮然とした表情で足を下ろし、ギレイオはサムナと背中合わせに敵に向かった。
「遅え」
「悪かったな。お前のせいだ」
「……働きすぎた」
「おれがな」
「俺だ」
「おれさ」
「俺はここで何十匹も相手してんだぞ」
「……お前な」
 言い合う言葉は尽きることがない。始めは二人のやりとりを珍しいものでも見るような目で見ていた“異形なる者”たちだったが、状況の変化を深く考えるのを止めたようである。驚愕を本能が凌駕し、一匹が動き出したのを合図に均衡が崩れた。
 腕が、爪が、牙が、我先にと血肉を求める。
 だが、それを甘んじて受けてやるほど彼らは甘くもなく、優しくもなかったのだ。
 一瞬と言っても過言ではない。ギレイオの強烈な蹴りと、サムナの長剣が“異形なる者”たちの垣根を壊す。
 崩された垣根を越えてまた別の“異形なる者”が現れ、それを問答無用とばかりに倒し──要するにキリがなかった。
 二人は脅威だった。
 明確な意思があるかどうか不明な“異形なる者”でも、それを恐怖と感じるほどに。だから今、ここで叩く。いずれ自分たちの脅威となるであろう、この二人を。
 恐怖は強さとなり、トロールが渾身の力を込めてサムナに向かって腕を振り下ろす。それを腕一つで受け止めたサムナの腹に、隙をついたオークの蹴りが入った。
 倒れることはなかったものの、激痛に顔をしかめる。
 片手で腹をおさえ、剣を構えるが切っ先が定まらない。それでもサムナは痛みを堪えて相手に斬り込んだ。
 余計な動きはなく、的確に急所を貫いて斬る。しかし、剣を振るう度に痛みが増し、激痛が頭を震わせているようだった。

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