Piece2



「馬鹿が……」
 嘆息し、サムナは振り向きざまにトロールを一刀両断する。
 剣は、もう重くなかった。
 恐れはない。奢りもない。
 ただ純粋な強さのみがわきあがり、目前の敵をなぎ倒してギレイオの後を追う。
「あの馬鹿が……!」
 ギレイオの脆さはわかるが、だからと言って今の不安定な状態で単身、敵の群へ突っ込むのは得策と言えない。いつもなら冷静な判断を下すギレイオがそうしたことは、サムナにとって危機感を煽る現実だった。
──どうなるか。
 「暴走したらどうなるか、知りたいか」。以前、ギレイオが呟いた言葉である。自身を嘲るようでもあり、呪うようでもあり、普段のギレイオからは予想もつかぬ脆さがそこにはあった。
 視線を転じれば、鬼神の如きアークの戦いぶりと、豪快なベイオグラフの一閃が見える。彼らの周りには着実に“異形なる者”の死体が築かれているが、その顔に時折見える疲労の影は、彼らが人間であることを再確認させた。
──無尽蔵じゃない。
 体力も何も、果てがあるはずだ。
 次々と“異形なる者”を斬り伏せてはいるが、追うべきギレイオの背が段々と小さくなっていく事に焦りが募る。
──困る。
 あいつに死なれては、困る。
 その時、背後に感じた気配に対し、サムナは躊躇う事なく剣をないだ。しかし、肉が斬れる感触はなく、剣と剣が交わる澄んだ音が響く。交差した剣の向こうでは、若い騎士が冷や汗をたらしているところだった。
 だが、渾身の力を込めて振るわれた剣を一度は受けたものの、やがてバランスを崩して勢い良く倒れこむ。血や砂にまみれた白い制服は、まごうことなき神殿騎士のそれであった。
 焦っていたとは言え、一番関わりたくない人間である。剣を振るったことを後悔しながら、体を起こす騎士に手を貸した。
「すまない。焦っていた」
「いいよ。こんな状況じゃ仕方……」
 立ち上がってサムナの顔を正視した途端、その男はぎょっとした顔になった。
「お前、討伐指定の……!」
 咄嗟に剣を構えようとする騎士の腹に正拳を見舞う。
 小さくうめき、騎士は倒れこんだ。力の抜けた騎士を抱え上げ、戦闘地帯よりやや離れた所に運んで横たわらせる。
──すっかり忘れていた。
 この、間の抜け方はギレイオに似たのかもしれない。
 よく考えてみれば、周囲には神殿騎士が少ないながらもいるのだ。悟られまいとしても見つかるのは時間の問題である。

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