Piece13



「ここでこんだけ素通りされてんだぜ。マトアスぐらいなら一日いても大したことねえだろ。いざとなりゃ暴力の出番だし、ここはそれに関しちゃいくらか寛容みたいだしな」
 ほれ、とガイアに来て何回目かの喧嘩を指さす。武術の街は血気盛んな人間も引き寄せてしまうようだった。特に何の感慨を抱くでもなくそれを眺め、サムナはギレイオと共に車に乗った。
 マトアスはガイアから少し、エデン側に寄った所にある。ガイアよりも規模が小さい分、人の生活圏も狭く、その間隙を埋めるように遺跡があった。時間の流れというものを一切無視したかのような街並みはガイアよりも浮世離れしており、遺跡の前に立てば懐古趣味のない人間も、否応なく過去へと引きずり込む。そんな行動に何の意味もなく、そして今を生きる人間には過去の繁栄の跡など、もっと価値がないとわかっていてもだ。
 頭の隅で無意味とわかっていながらも、そういった情動に走らせる力がこの街にはあった。ここには遺跡が多すぎる。とギレイオは思った。過去の残像や塵が現在と重なり合って、入り込む人を惑わせる。
「……調査するだけして、とっとと埋め戻しちまえばいいのに」
 食堂から見える風景にギレイオは悪態をついた。道を挟んで向こう側に見えるのは上水道の跡らしいが、ギレイオにしてみたら石で造られた溝である。そんなものをありがたがって遺しておく気持ちが理解出来ない。
 小さな食堂には街の人間や冒険者、観光客、学者風の人間もいるが、全体的にこじんまりとした印象を受ける。ガイアに行く途中で立ち寄った程度の者が多いのだろう。大したことない、とギレイオが言った通り、今のところは注目を集めている様子もなかった。このところ野宿続きで、ろくな食事を取っていなかったギレイオが、ここなら大丈夫と踏んでまともな食事にありつこうと入った次第である。
「そういうものでもないんだろう。まだ調査が済んでいないのかもしれない」
「俺が生まれる前からやってんだ。この程度のもんならとっくに終わってら。後生大事に遺して、それ目当てに来る観光客もよくわかんねえけど。金づるの間違いじゃねえの?」
「機嫌が悪いな」
「別にー。ただ、後から勝手に価値をつけてありがたがる神経が信じらんねえってことだよ。そんなもん、昔の連中は考えちゃいねえのにさ。埋め戻せっていうのは俺なりの良心なんだぜ?」
 料理を運んできたウェイターがじろりとギレイオを睨み付け、皿を乱暴に置いて去っていく。ギレイオの言い分が聞こえたのだろう。遺跡のある生活が普通となっている人間にしてみれば、ギレイオの言い方は癪に障るに違いない。
 料理は炒めた肉に豆、野菜が、炊いた雑穀の上に盛大に乗っかっているだけのシンプルなものだった。それでも、野宿生活の間の食事に比べたら天地ほどの差がある。たっぷりと大皿に盛られているのも申し分ない。湯気をかき分け、スプーンですくって食べながらギレイオは続けた。
「言われて怒るぐらいなら、その程度の誇りしか持ち合わせがねえってことだな」
 呆れたように言い、ウェイターが置いた際に零れ落ちた豆を指で弾いて床に落とした。

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