Piece11



 ギレイオはボンネットに飛び乗って、助手席に置いた女の荷物を掴みとる。そして不思議そうに見守る相方の横で袋の口を開け、顔をつっこんだ。いよいよ不審に思ったらしいサムナが声をかけようとすると、ギレイオは袋から顔をあげる。
「これだ」
「何が」
「これこれ、この匂いだ」
 これ、とサムナに押し付けるようにして荷物を渡すと、地図に見入った。
 頭蓋骨と対面するような形でサムナも袋に顔をつっこむと、腐敗臭や土臭さに混じって甘い匂いがする。およそ、この袋の中に展開している光景とは遠い、花の匂いだった。
「知っているのか?」
 地図上を指でなぞりながら探すギレイオに尋ねると、思いのほか力強い頷きが返ってきた。
「ああ、知ってる。このあたりじゃ見つからねえわけだわ」
「花の匂いのようだが。……嗅いだことのない匂いだな」
「狭い所でしか咲かねえからなー。……ああ、ここかな多分」
 場所に見当をつけてルートを模索し、ギレイオは地図を畳んでこれもまたサムナに押し付けた。
「運転手交代。もう少し戻った所で、お前は井戸を探せ。多分、その近くだ」



 再び大きく北へ迂回する形を取りつつ、ギレイオはハンドルを握る。朝日は既に昼の力強い日差しへと姿を変え、色を取り戻した大地はいよいよ鮮やかさを増し、時折、色が飛んで見えることもある。“異形なる者”に出くわす回数も減ったおかげで、目標を探し出す作業に専念出来るというものだった。
 風は乾き、乾いた風が地面の砂を巻き上げて視界を濁す。点在する緑は申し訳程度の存在しか主張せず、遠目にこんもりとした森を眺めたサムナはギレイオを振り返った。
「……お前が人助けのためにこれだけ動くのも珍しいな」
 これまでの行程を一気に帳消しにしてしまうような行動である。わざわざ面倒事に首を突っ込んで、スタートラインにまで戻るようなことは普段のギレイオなら想像もつかない。当然、ギレイオも初めは反対していたのだし、それが普通だったのだ。
 しかし、その考えを全くの真逆へ持っていくほどの何が、ギレイオの中に起こっていたのかサムナは不思議だった。
 ギレイオはハンドルを握ったまま、少しだけ黙した後に答えようと口を開いたが、息を吐いただけで再び口を閉ざした。言葉を飲み込んだ、とサムナは思った。
 身の内にしまいこんだ言葉は何だったのかと問おうとすると、ギレイオが遮るように言う。
「ぼちぼち目的地だと思う。井戸探せ」

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