Piece8



「何かあるのか」
「違う。……ちょっと目の調子が悪い」
 振り仰いだ顔を元に戻したギレイオは、目をしばたいて様子を図ろうとしている。
 右手を近づけたり遠ざけたりしながら目の調子を元に戻そうと試みるが、やがて、ギレイオは小さな嘆息と共に「駄目だ」と呟いた。
「元に戻らねえや」
「見えないのか?」
 両目とも青色を呈している。異常があるとすれば目のふりをした左目の魔石だが、傍目には何ともないように見えた。
「見えるけどかすれるなあ。……疲れ目かな」
 そんなことを暢気に言いながら、前方に控える学校を、目を細めて見る。焦点が合わなくなっているらしいことは確かだった。
「ここんとこメンテもなんもしてなかったもんなあ……」
「そういう事が必要なのか?」
 サムナはギレイオがそういった用事で行動したところを見たことがない。ただそういうものなのだろう、として受け取っていた。
「何年かに一回はな。義眼じゃなくて石はめこんでるわけだから、まあ、普通は行かなきゃ駄目なんだけどさあ……」
「お前はどうしてそういう……」
 サムナは呆れて溜め息をついた。こちらの心配をするより、まず自分の調子を図れないで修理屋とは言えない、と次いで続けるが、当の本人は憮然とした表情で学校を睨み付ける。
 多くを言いたくはなく、出来ることなら避けて通りたい道らしい、とサムナは考え、そこで初めてピンとくるものがあった。
「……もしかして、これから会う人間でないと無理な話なのか」
「無理っつうか……」
 ギレイオはこれまで以上に大きな溜め息をつきながら言った。
「そいつがこの義眼を作って、はめ込んだ張本人なんだよ。……会いたくねえ理由わかるだろ?」
 まるで駄々をこねる子供のようだと悟り、サムナは「行くぞ」とだけ言って先を行った。その後ろを渋々といった表情でギレイオが続き、互いに言葉を交わすこともなく数分後、屋根の上を走るのにもいよいよ限界が近づいてくる。丘の周りには狭い林が密集し、民家も遠巻きに建つのみで、この先は一度地上に降りてから様子を確かめて行くしかなかった。
 民家と民家の間の狭い路地に降りると、林との境界線よろしく小道が左右に伸びている。これが丘を一周し、なおかつ、学校との境界を定めているようだった。人の気配もなく、普段使いされている道ではないようである。

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