Piece8



「出来れば会いたくねえんだよなー……でも会わないわけにもいかねえし」
 サムナは学校を見つめた。
「おれが一人で行けばいいだろう」
「お前一人で行ったら門前どころか門にも辿りつけねえよ。いいさ、お前連れてって話つけたら適当に逃げるから」
「それほど手ごわいのか?」
「暴力なら俺の方が強い」
「……腕っぷしのことを聞いたわけではないんだが」
 ギレイオは頬杖をついて嘆息した。
「人間性でって意味か? それならあっちの方が性悪だよ。頼むからあいつのことだけは学習するなよ」
「……努力はするが、自動的に吸収しようとするものに関しては、おれにも止められない」
「じゃあ後で添削な。知ったってろくなことじゃねえし」
「ところで」
「ん?」
「おれたちはここから降りるべきじゃないだろうか」
 ここから、と言ってサムナは視線を下げる。
 二人が腰掛けた赤茶色の屋根は、緩やかな斜面を地面へ伸ばす。その下から聞こえる人々の喧騒は遠い。視界の大半を空が占め、その下半分を屋根の波が埋め尽くす。
 二人は民家の屋根の上にいた。
 ギレイオが顔をしかめる。
「降りてもいいけど、降りかかる火の粉は自分で払えよ」
「おれの分は自分でどうにかするが、お前の分はどうにも出来ない気がするんだが」
「知るかよー。入った途端、食い逃げに間違われて追いかけられて、挙げ句の果てに屋根の上。猫かっての」
「心当たりはないのか? 本当に?」
「……お前、俺がそうする暇がどこにあったと思ってんだよ。一緒にいただろうが」
「過去の行いに関しては範疇を越える」
「やってませんよ。あれは完全な人違い。俺そこまでお金に失礼なことしませんから」
「まあ……そうだろうが」
 お金に、という部分に関しては大きく頷ける。確かに、ギレイオがそんなみみっちい真似をするはずがなかった。
「俺、そこまで人相悪いかなあ」
 ギレイオのぼやきに、サムナは数秒考えた後、答えた。
「ゴラティアスの所にいた時よりは、マシだと思う」
 素直な感想を述べたつもりだが、ギレイオはいくぶん、気分を害したようだった。



 屋根の上というものは遮るものがない分、非常に風の当たりが強い。人目がないのをこれ幸いとばかりに上ったはいいが、さして低くもない民家の屋根の上というものは動いていても寒いものだった。山からの風の所為だろうが、その寒風に負けて地上へ戻るという選択肢は二人にはない。
 戻ったところで、今度は人からの風当たりが強くなるだけである。しかも、彼らの半分以上は武器を持ち、二人を傷つけることを厭わない連中であることは明白だ。そこに街の人間が加われば、いくら傍若無人と言われるギレイオでも派手に立ち回ることは出来ない。
 自分たちが平和に目的を遂行するためには、屋根というのは唯一残された逃げ道だった。
「……待った。サムナ、ちょっと待て」
 屋根から屋根へと飛び移っていた二人は、ギレイオの制止の声で足を止めた。勢い余って先に進んだサムナは引き返し、空を仰いだ姿勢のまま身動きをしないギレイオに声をかけた。

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