060.召し上がれ(3)


「ガルベリオ」

 皆よりも更に背の大きい男が振り返り、二人を見て手招きをする。見れば、彼が話しているのは聖女を専任にしたというナーティオだった。ということは、隣に立って柔らかく微笑んでいる少女が件の聖女ということになる。

「よう。元気か」

「それなりに」

「ヴェルポーリオが一緒じゃ心労がかさむわな。ま、軽く流せ」

「ひどい言い様だな。おれは耀に人生の楽しさってのを教えてやってるんだけど。ところで、そちらのお嬢さんが例の人?」

「もう聞いたか。まあそりゃそうだな」

 ガルベリオは笑って紹介した。

「彼女がナーティオの専任になった、ナイリティリアだ。噂の通り、元聖女さま」

 初めまして、と耀とヴェルポーリオに頭を下げる仕草は、なるほど、最高の環境下で育ったことが窺えた。声は鈴が転がるように美しく、顔立ちはまるで人形である。隣でふくれっつらを隠そうともしないナーティオへ、ヴェルポーリオは笑いかけた。

「おめでとうか、災難だった、か。どっちがいい?」

「会って早々、喧嘩売ってんのかお前」

「まさか。綺麗なお嬢さんを貰って幸福者だね、って言ったんだよ」

「ったく、ほんとは今日だって来たくなかったんだ。それをこいつが、最初の挨拶が肝心だとか何とかぬかして、無理矢理さ。ぜっっったい、ここの連中はオレらのことをあげつらって笑うに決まってるからやめろって言ったのに、ちくしょう……」

 止まることのない悪態は、今まで散々からかわれたことの反動だ。だから広場から逃げてきたのだろう。しかし、ご立腹のナーティオに反して、ナイリティリアは穏やかなものだった。

「何をおっしゃるのですか。私のような新参者は、まず最初にちゃんとご挨拶をせねばなりませんでしょう?それも、お話を窺っていると、つまりはナーティオ様のお婆さまとお会いさせて頂くということと同じ。ナーティオ様のお傍に置いて頂けるのに、ご挨拶もままならないような娘だとは思われたくありません」

「様って……」

 耀も思わず笑ってしまったのだから、ガルベリオとヴェルポーリオなどは声をあげぬように笑うだけで精一杯である。腹を抱えて笑う二人をねめつけながら、ナーティオは疲れたように肩を落とした。

「だからそれはやめろって何度も……」

「これが私のナーティオ様への親愛の印なのです。お嫌ですか?」

「いや、だからそういうことじゃなくてさあ……」

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