060.召し上がれ(2)
「お前もよく平気だな」
「女ばかりの家で育ったのが役に立ったんだと思う。前は嫌で仕方なかったけど、今はエルがいるからいいよ。ね」
「ありがとう」
そう言って、エルは幸仁の額に軽くキスをした。はっきり言って、この二人の関係はなかなか特殊である。耀がうんざりして閉口する中、ヴェルポーリオがエルへ尋ねた。
「今日はどれくらい来るんだろうね」
「私としては少ない方が嬉しいわね。でもまあ、グランマがお目覚めになるんだから、それも期待できないわ。普段よりは多いわよ、きっと」
「グランマね……こいつの鬱陶しい説明によると吸血鬼の始祖だっけ?」
「失敬な。懇切丁寧に説明したと言ってごらんよ」
「合間の雑談が邪魔なんだ」
「グランマの話で何を雑談するのか知らないけど、その通りよ。普段は眠ってらっしゃるけど、一定期間でお目覚めになるのね。その時には、世界中に散らばった同士が集まって、お目覚めを祝うっていうのが、今日の集まり」
「顔合わせだって聞いてたのに、エルったら肝心の部分はこっち着いてから話すんだもんなあ……今から憂鬱で仕方ないよ。挨拶するったって、日本の中流家庭の品格じゃ底が知れてるし」
幸仁は溜め息をついた。
「耀は会った事ある?」
「ないな」
「じゃあ、何でそんなに堂々としてられるのさ……」
「別に一芸披露ってわけじゃないし、とっとと挨拶すればすぐに終わる。お前がどうしてそこまで緊張するのか、オレにはそっちの方が不思議だよ」
「こいつは鈍感だから。ユキみたいに繊細な考え方は、おれがやってあげているんだよ」
「てめえなあ……」
耀をからかっては、ヴェルポーリオは楽しんでいるようだった。そんな二人のやり取りをおかしそうに見ながら、エルは一歩先に出る。
「まあ、ゆっくりいらっしゃい。私は先に行って、ユキを慣れさせてくるわ」
幸仁は弱弱しい笑みを浮かべながら、市場に連れられる子牛よろしく、エルの後を早足でついていった。
エルに言われたからではないが、のんびりと歩くこと三十分。城へ着くまでに色々な仲間と会い、軽く会話を交わすなどして情報交換を済ませておく。イーレイリオが老婆を獲物と間違えたとか、ナーティオの専任が聖女だったとか、笑い話の種になるようなものがほとんどだった。
城内に入ると、広い玄関ロビーにはメインの広間から逃げてきたと思われる者たちがいくつかのグループに分けて集まっており、その中に知った顔を見て耀は声をかけた。
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