057.コンビニ(2)


「葉巻なんて吸ってる人、見たことないし。それに葉巻って高いんですよね。おじさんには似合いませんよ」

「……じゃあ、何なら似合うの」

「さあ。……わたし、煙草嫌いですから」

 言いながら少女はガルベリオの周りを掃除し始める。まるでさっさとどけと言わんばかりの態度だ。

「これ葉巻なんですけど」

「親戚みたいなものでしょ」

「……なに怒ってんの」

 歯に絹着せぬ物言いはいっそ爽快なほどである。拍子抜けしてぽつぽつと言葉を返しながらも会話が成立しているのだから、おかしなものだ。

「さっき注意したのに聞いてないじゃないですか。それにお客さんも……驚くし」

「別に俺、何もしないよ?」

「しなくたって、その顔じゃ」

「……そんなに怖いかねえ、俺」

「ええ、まあ」

「……」

 マフィアも怖がる人相を、この少女はたったの二言で粉砕した。

 そんなに怖いのか、とあぐらをかいた足の上で頬杖をつく。少々、自分の姿形について熟考を要さなければならないらしい。

「あの」

「あ?」

「煙草……じゃなくて葉巻」

「辛抱強いねえ、きみ」

 ここまで食い下がると、むしろ誉めてやりたい気分だった。葉巻をくわえて、半ば呆気に取られながら少女を見上げる。

 すると、今まで頑なだった少女の顔に初めて表情らしい表情が浮かんだ。

 ただし、あまり良いものではない。

「煙草、嫌いなんです」

「煙がかね」

「全部。匂いも、火も、煙も」

「そらまた徹底的な……」

「お父さんみたいだから」

「俺、子供いないけど」

 作れるのかどうかもわからない。

 ガルベリオはコンビニの中を振り返った。カウンターにおさまっている初老の男が、さっきから心配そうにこちらを見ている。振り返ったガルベリオと視線があい、気まずそうに顔を反らした。

「あれは?」

 指差して問う。少女は「おじいちゃん」と言った。

「お母さんのお父さん」

「いるじゃないの、お父さん」

「違う。……頭大丈夫?」

 怪訝そうな顔で尋ねられた。そうか、彼女は人間だった。あまりにも臆せず話しかけてくるものだから、つい同族と話す勢いで応じてしまった。

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