057.コンビニ(1)


「……げほっ」

 大きく吹かした葉巻の煙が喉につっかかり、ガルベリオは思わずむせる。日々、変化する味わいに惚れて長年愛用してきたものだが、やはり肺にまで煙を到達させるような真似はしない方がいいらしい。葉巻らしからぬ吸い方は愛好家からすれば嫌な顔をされそうだ。

 しかし人間としての様々な感覚が鈍磨した身には、こうでもしないと味わいつくせないものがある。面倒だ、と思いつつ、手に馴染んだ葉巻の感触はなかなか手放せるものではない。むせながらも、再び口に運んだ。

──が。

「……禁煙なんですけど」

 ひどく警戒した少女の声が耳に届く。見れば、コンビニのアルバイトらしい少女がこちらを睨んでいた。三つ編みにした黒髪が夜闇に溶けて見え、その下で睨みつける目にはまだ幼さが残る。両手には武器よろしく、ほうきとちりとりが握られていて──ただ単に、掃除ついでで注意しただけかもしれないが。

──えらい豪気な娘だな。

 自分の図体を見れば大抵の人間は怯むのだが、と思わずわが身を振り返った。

 見た目は四十半ばのおっさんで、だらしなく胸元を開いた黒いシャツの下からは、やや日焼けした肌が覗く。そこには長い間生きてきた上でついた傷が見え隠れし、地べたに座り込んでいるとは言え、この国の標準体型よりはるかに大きいことはわかるはずだ。

 ここまで来ればどこぞのマフィアと間違われることも多いのだが、この国にあってはその早合点も辛うじて緩和される。肩まで伸ばした髪と瞳は少女と同じ、漆黒の色を落としていた。

 もっとも、自分はマフィアなどという可愛らしいものではなく、更にタチの悪い種族だったりするのだが。

「あの……日本語わかりますか」

 あまりに驚いて二の句が次げないでいると、少女は今度は不安になったようである。なるほど、この風体だと日本人には見えないな。

「わかるよ」

 とりあえず返事をしておいて、再び葉巻を噛む。注意されたからと言って、やめてやる義理はない。

 案の定、少女は顔をしかめた。

「かっこつけてるつもりなんですか」

「……かっこ?」

 思いがけない言葉に思わず変な声が出る。すると、少女は固い声に今度は小馬鹿にしたような響きを乗せた。

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