031.吟遊詩人


 教えるよ。沢山のことをきみに教えよう。



 生きる術を。

 人を喜ばせる術を。

 人を悲しませる術を。

 怒る術を。



 教えるよ。

 これからきみは沢山の人に出会うことになる。だからぼくはきみに沢山のものを預けて、きみに沢山の美しいものと汚いものを見てもらいたい。

 その中できみが得て、失うものにぼくは興味がある。

 それはぼくが本来得るはずだったものなのか、ぼくが本来失うはずだったものなのか。

 それともきみ自身が得るべくして得たものなのか、失うべくして失ったものなのか。

 ぼくはそちらに興味がある。

 教えるよ。沢山のことをきみに教えよう。

 いつか出会う幾万の人々にぼくというオリジナルが居たことを、きみが伝えるために。

 ぼくのサーガを、きみに全て教えよう。

 オリジナルの記憶を情報として受け取るきみに、吟遊詩人のぼくから沢山のことを。

 オリジナルから、クローンのきみたちへ。



 教えるよ。沢山のことを教えよう。



終り


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