017.16歳


親愛なるベストゥーニ

 元気にしているだろうか。そちらは寒さが増しているんだろうね。こっちはまだ暖かいがマフラーが手放せない。僕は元気にしている。勿論、君から預かった犬も元気にしてるよ。ブラックは安直すぎるから、ガナッシュに名前を変えた。文句は言うなよ。遠くから呼ぶ時、ブラックじゃ恥ずかしいんだから。
 勉強は進んでいる?修行と言った方が良いかな。凄いね、領主お抱えの画家だなんて。今度僕にも絵を描いておくれよ。その時は格安でね。
 それじゃここで失礼するよ。また書くね。

親しみを込めて
エイルマン



親愛なるエイルマン

 手紙ありがとう。そうだね、こっちはもう寒いよ。三回目の冬だけど今年はいつにも増して冬が早い。今朝は霜がおりていた。元気にはしているけどそっちの暖かさが懐かしい。
 ブラックをガナッシュに?君らしいね。嫌とは言わないがそのネーミングセンスもどうかと思うよ。元気であるなら、なによりだけど。
 お抱えと言っても勉強中の身だからね。まだ一人前じゃないから。でも自慢するならするで、宜しく頼むよ。その宣伝効果によって値段は応相談だね。
 それじゃあ、また。

親しみを込めて
ベストゥーニ



親愛なるベストゥーニ

 久しぶりに手紙を書くよ。元気にしてるかい?こっちは昨日からの大雪で大忙しさ。庭が雪に埋まって母さんがかんかんだ。木の苗を植えていたのに、って。そっちだとそんな事ぐらいで怒ってなんかいられないだろうね。
 絵はどうだい?今は領主様の肖像画を描いているんだってね。僕の情報網をなめないでくれよ。凄いなあ、段々と君が遠い人になっていくみたいで寂しいね。たまにはこっちに帰ってきなよ。うちの母さんが会いたがってるんだ。
 それじゃあね、また手紙を書くよ。

親しみを込めて
エイルマン



親愛なるエイルマン

 俺も久しぶりに手紙を書く。最近絵筆しか持っていなかったからね。ペンの感触に慣れるまで暫く字が汚いだろうけど我慢してくれよ。
 そっちは大雪か。こっちは最近晴れ続きだよ。暖かいのは嬉しいんだけどね、雪を背景に肖像画を描いているもんだから堪らないよ。雪が恋しいなんて思うとはね。
 君の情報網にはつくづく感心さ。何をしようと筒抜けな気がしてならないなあ。俺が君の母さんが作ったスープを恋しがっているのも知ってるんだろうね。
 じゃあペンを絵筆に変えるかな。またね。

親しみを込めて
ベストゥーニ



親愛なるベストゥーニ

 こちらもようやく太陽を拝めたよ。夏はあんなにうっとおしいのに、こんなにありがたいとはね。君の、雪が恋しいのと同じだ。
 僕は独自の情報網を持っているけど、それは企業秘密だよ。それを言うといつも母さんに怒られるんだけどね。お前はまだ16歳だろう、って。別になんだって良いと思うがどうだろう?本当に参るよ。君が母さんのスープを食べに来るのが待ち遠しい。その時はひよこ豆を持って来いよ。あれがないと美味しくない。
 それじゃあ、また手紙を書くよ。

親しみを込めて
エイルマン



親愛なるエイルマン

 晴れて良かったじゃないか。こっちはようやく雪が降ってほっとしたよ。肖像画がもう少しで仕上がりそうだ。途中、雪が溶けたりして随分嘘があるが愛敬だろう。
 俺はもうすぐで16歳だけど、16歳の君はとても中途半端な時期だから君の母さんも口喧しいのさ。親心だと思うよ。寛大になれ、と言いたいところだがその様子だと随分参っているみたいだな。その内、ひよこ豆を持ってなだめに行くよ。なんだって年下の俺がそんな事するのか疑問だけど。
 それじゃあ、また。

親しみを込めて
ベストゥーニ



親愛なるベストゥーニ

 こっちはもう雪が溶け始めている。雪割草が可愛らしいよ、君に描いてもらいたいな。
 親のこと言われると困るな。返す言葉が無い。また母さんに笑われてしまう。君も僕の兄弟になってくれれば良かったのに。君みたいな弟がいれば僕も安心して、色々やれるのになあ。一時期うちの両親も、この話は乗り気だったんだよ。でも無理強いは出来ないしね、君の両親が見付かる事を祈るよ。
 もうすぐ君の誕生日だね。何が送られるのかは楽しみにしていてくれ。
 それじゃあ、また手紙を書くよ。

親しみを込めて
エイルマン



親愛なるエイルマン

 そうか、こっちはまだ雪割草が見れないな。あともう少しなんだろうけど。
 君の弟になれたら楽しいと思うよ。君の両親も良い人達だしね。けれど俺はやっぱり自分の親を見付けたいんだ。どうしても見付けたい。申し出はとてもありがたかった。感謝している。
 そういえばもうすぐ誕生日だったな。君に言われるまで忘れていた。肖像画が本当にあともう少しだから、今とても追われている。けれど君の手紙はとても励みになるから宜しく頼むよ。勿論、プレゼントもね。
 じゃあ、また。

親しみを込めて
ベストゥーニ



親愛なるエイルマン

 突然の手紙すまない。今俺はとても興奮している。驚いているんだ。
 早く君に知らせないといけないと思って、今ペンを走らせている。
 父さんが見付かったんだ!母さんは死んでしまっていたんだけど。
 それでもとても嬉しい。俺の誕生日にこんな嬉しい事があるだなんて、何て幸せなんだろう!
 すまない、とても興奮しているんだ。許してくれ。また何かわかったら手紙を書くよ。
 それじゃあ、また。

親しみを込めて
ベストゥーニ



親愛なるエイルマン

 返事を待たずの手紙を許してくれ。
 とても興奮している。
 だけどどこかで俺は怖いんだ。あれを話そうこれを話そうと決めていても、実際父さんは俺をどう思うのか……。俺を捨てた理由がどうしても聞きたい。
 俺は怖いよ。16歳になった途端に……こんなに心苦しい誕生日は初めてだ。君に偉そうなことは言えないな。
 やっと父さんに会える。また手紙を書くよ。
 それじゃあ、また。

親しみを込めて
ベストゥーニ



親愛なるエイルマン

 俺は俺がわからない。父さんに会ったが……ただ理由を聞きたいだけだったのに。
 16歳は確かに半端だ。
 俺は俺をどうにも出来ない。君に偉そうな事を言った事を恥ずかしく思うよ。
 ひよこ豆を送る。それで美味しいスープを作ってくれ。

 君は俺の親友だ。俺はそれを誇りに思う。
 それじゃあ。

親しみを込めて
ベストゥーニ



親愛なるベストゥーニ

 昨日うちの父さんが死んだ。足を滑らせて川に落ちて……。
 君の父さんは誰なんだ?会えたのか?何でそんな事を言うんだ?

 ひよこ豆ありがとう。
 返事を待っているよ。

親しみを込めて
エイルマン



終り


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