077.ビー玉(1)


 運び屋がちょきん、と鋏を動かすと、切られた緑色の髪が広がった布の上に落ちていく。神さまがそれを取ろうとするよりも先に、傍で見ていたタクミが手に取った。

「……染めてんのかと思ってた。地毛なんだな」

「染めるほど、ぼくは自分の髪色に難儀したことはない」

「で、何でいきなり散髪屋なんかしてんの?」

「ぼくが切りたいと言った」

「それで、僕が切りましょうと請け負ったんだよ」

「あんたらの問答を聞いてるんじゃねえ。理由だよ、りゆう!」

「僕は切らなくてもいいんじゃないですかって言ったんだけどねえ」

「ぼくも身だしなみぐらいは気にする。髪は伸ばしても構わないんだが、それがざんばらでは見目も悪いだろう」

「そうか?」

「神さまと言ってぼさぼさ頭で現れたら、どう思う?」

「嘘だと思う」

「正直者だねえ」

「……こういう時は世辞を言うのが人間だと聞いたんだが」

「今だって充分嘘だと思ってんのに、いちいちお世辞なんか言ってられっか」

「なるほど。まだ信じてもらえていないようだ、運び屋」

「どうして僕にふるんです?」

「お前の胡散臭さがそうさせているのではないかと思った」

「やだなあ。神さまほどじゃありませんよ」

「どっちも胡散臭えよ」

「では、どうしたら信じる?」

「……今更だろ。本当なら初対面の時に言うべきだろ、それって」

「そうなのか?」

「考えてみればそうですね。うーん、未だにタクミくんとの間に壁を感じるのはその所為かもしれないなあ。あ、動かないで下さい、神さま」

 運び屋を振り返ろうとした頭を元の位置に戻し、緑色の髪を櫛で梳く。鋏は工作用の物を使っていた。今日び、本当の散髪屋が使っているような道具など、簡単に揃えられるものではない。

「そうか、壁か……タクミくんはぼくを恐がっているのだと思っていた」

「何でそうなる」

「時々、物凄い目でぼくを見るだろう」

「風呂に入りてえっつった次の日、いきなり浴槽だけ出てくりゃな」

「浴槽だけ出てきたの?」

「そう。魚の水槽みたいな、水色のが草むらにどんってあるんだもんな。一種のホラーだぜ、あの光景は」

「そこから何か出てくれば、本当のホラーだねえ。出てきた?」

「出ねえよ!」

「風呂と言ったら温泉、温泉と言えば露天風呂だと思うが、さすがにこの庭でも温泉は出ない。だから原点に戻り、一般家庭にありそうな風呂を持ってきてみたんだが、タクミくんの希望には叶わなかったということだ」

「じじくせえなあ……そもそも、その連想ゲームがおかしいんだよ。風呂っつったら風呂。温泉じゃ想像が飛びすぎだ」

「せっかく用意した浴槽を、水槽と言う想像力も凄いものだと思わないか?」

「水色で妙にでかけりゃ水槽に見えても仕方ねえだろ。神さまの美的センスも高が知れてら」

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