074.迷路(4)


「楽しみにしてて下さいね。我ながら頑張ったと思います」

「菜園なんて、この庭に物凄いものが出来るなあ。……ああ、やっとわかった。マキちゃんこっちだね」

「はい!」

 声が近くなり、運び屋は確信を持って角を折れた。すると、そこにはマキの姿はなく、代わりに神さまが膝を抱えて座っていた。

「……何故、お前がここにいる。マキくんの方を捜していたのではなかったか?」

「はあ……僕もそのつもりだったんですが」

 立ち上がる神さまの向こうに光るものを見つけ、運び屋が指差すと、神さまはそれを拾う。可愛らしい、小さな手鏡だった。

「出て行ったんでしょうか」

「出て行ったな。……しまった、彼女と約束をしていたのに」

「約束?」

「出て行く時に、彼女を捕まえてもらうよう運び屋に言っておくと」

「でもまあ、どうやら出て行けたようですし、その必要もないんじゃないですか?神さま」

「いいのか?」

「自力で出て行った人に、神さまは今まで何かしてやりましたか?」

「……ないな、そういえば」

「なら、それでいいんです。さて、それじゃあ神さまを見つけたことですし、この迷路を出てしまいましょう」

「うむ」

「それにしても、ミノタウロスのような話があるのに、迷路の先で見つけたのが神さまというのもおかしな話ですねえ」

「迷路とは怪物を隠すだけのものなのか?」

「いいえ。迷うことを楽しむ場所です、神さま」

 二人が迷路を出た頃には、すっかり日が暮れていた。そして入った時には気付かなかったが、入り口の近くにどこからか拾ってきたレンガで囲われた、小さな菜園があるのを見つけた。

 マキが植えたのだろう。薄緑の柔らかな芽が、土から顔を出していた。


終り

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