070.カラクリ(2)


「悪い、ちょっと傷治してくれ」

 傷?と聞き返して、ヨルドは赤くなったリドゥンの頬を見て顔を歪めた。

「また喧嘩したの?同じ奴?」

「毎度毎度、ご苦労なことだよな。頭で勝負する気がねえなら、さっさと出て行くぐらいわけねえだろっての。金持ちの馬鹿息子が道楽で入ったようなもんなんだから」

「……そんなこと言われたら誰でも怒るって……」

「知らん。俺の覚えてる限りじゃ、最近は会ってもいない」

「そんなの、八つ当たりじゃん」

「物に当たらないだけましだよ。実験器具でも壊されたら殺してるところだ。……あー、いて。とりあえず治して」

 ヨルドと話しているうちに、先刻の魔法で鈍っていた痛みが段々と疼き出した。さすがにリドゥンも眉をしかめるが、ヨルドは膝の上に手を置いたまま作業に移ろうとしない。

 再び、おや、と思った。今度ははっきりと疑問を持って。

「なに?」

「こないだ、手紙貰わなかった?」

「手紙?……なにそれ、それが今関係あんの?」

 ないけど、とヨルドは口ごもる。

「ないなら何で今言うかな。そういや最近、俺のこと避けてたろ。それでか?」

 ヨルドは口をつぐんで答えとした。リドゥンは小さく嘆息する。

「あるよ。パロルって奴から。お前のルームメイトだよな、あの子。でも貰ったとは言えない。読まないで返したから」

 そう答えながら、リドゥンはどうしてこんな話をしているのか疑問に思っていた。確か、ここへは傷を治してもらいに来たはずだが。手紙のことは誰にも言わないつもりだった──この瞬間までは。

「何で返したの」

「俺が読む理由がない」

 ヨルドの目が咎めるような目つきに変わった。

「理由、理由って、人の気持ちに理由がなかったら、リドゥンは何もしないの?パロルはあんなに頑張って書いたのに、受け取ってもあげないの?喧嘩だってそうじゃん。リドゥンは理由とか必要とか、そんなの関係ないって顔してるけど、向こうにしてみれば立派に理由があるんだよ。どうしてそれを知ろうって気にならないの?」

 矢継ぎ早に言葉が繰り出され、リドゥンも珍しく反射的に言葉を返した。

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