067.修正ペン(4)


 生身のナイフが、次々とサジェインの心を抉っているような光景だった。メイオンが黙って見ている中で、イードは更に鋭利な言葉をぶつけていく。

「まだ何も知ってもいないのに、一人で勝手に傷つかれちゃ困る。逃げたいならどこまでもどうぞ。でも、相当みっともないよ」

 サジェインは顔を上げた。それを合図と受け取ったように、イードは立ち上がり、サジェインを無理矢理引きずってドアの前に立たせる。

「運良く今日なら五年卒組も学都に戻ってる。パロルがどこにいるかぐらい、サジェインなら簡単なことじゃないの?」

 そう言ってドアを開けた。ゆっくりと開け放たれた隙間から、風が吹き込む。

「さっさと行っといで。でもって答えを持ってくるまでは、君の補習も単位もここで止まったままだし、僕は君を軽蔑する」

 頑張れ、と言って背中を力一杯押し出すと、バランスを失ったサジェインは廊下に転がり出た。さすがのサジェインもようやく自我を取り戻してイードを見返すと、既にドアは閉ざされていた。

 ぴたりと閉じ、開く気配さえ見られないドアは、イードの頑固さを表しているかのようである。サジェインは一瞬呆気に取られた後、しばらくぽかんとしてドアを見つめていた。そうしてその場でくつくつと笑い、次いで体中の空気を吐き出すように深呼吸をした。

 鬱屈した気持ちも、不完全燃焼の思いも、はっきりしない心も、全部吐き出していく。

 そして新たな空気を吸い込み、足に力を入れた。

 ドアの向こうで遠ざかるサジェインの足音を聞いてから、イードは椅子に戻った。

「……お前って奴は、ほんとにサジェインの世話女房みたいな奴だよな」

「それ、他の生徒に言ったら怒られますよ」

「お前は怒らないじゃねえか」

「間違ってないものに、怒りようがないでしょう。……サジェインは僕の命の恩人だから」

「なんだそりゃ」

「直接的にじゃないですけど。サジェインといると退屈しないし、頑張って生きてみるのも楽しそうだなって思えたから、僕にとっては恩人です。だから、サジェインには恩返しをしないと」

「……すげえ考え方」

 メイオンは修正ペンを回して遊び始める。

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